人気ブログランキング | 話題のタグを見る
NEW POST

これが次代を

 これが次代を

不眠症百算へては眼をひらき
赤ン坊も保健婦も肥え海みどり
明けがたの医者蒼白く見護つて
恩給も内助の妻はすでに額
白鷺の首がひよいひよい青田から
寝そびれて一夜の旅の水を飲む
学生に背負ふ仕事あり笑ひ合ひ
新年会続いて家の鮭茶づけ
車夫溜まり火鉢ではない火が起り
冬の月鍛冶屋の土間に火華あり
殉職も準殉職も同じ人
おむすびを母三角に娘は丸く
社長室そこから見える靴磨き
白き花つひに散るあり透き通る
お隣家の娘の素脚拭き掃除
舌打ちをしてからボタン探す朝
倖せは玩具買はれて見送られ
ロカビリーこれが次代を背負ふ群か
ルージユ濃き娘に使はれる母となり
よくもかう曲げたと思ふ竹細工
母の眼に手術は光る物ばかり
夕ざれば死せるが如く冬魚の
芋俵故郷の泥が土間へ落ち
またの名を鬼と呼ばれて所得税
大晦日持たざる者もふところ手
うららかさ今日屋上は子の世界
稲光はつきり線路見せて消え
学生の靴のまんまで職がなし
モーニング博士も齢は争へず
面会所客にも同じ湯呑みが出
蒼白に匂ふ蛇屋の飾り窓
赤ン坊の口がとンがる好奇心
上役に負けて明日の弁当函
海猫が哭くひとをうしなひしひとに
勝名乗り片手で三つほど刻み
それだけでいい父に似よ母に似よ
冬の石榴枝がマミムメモと残り
そよ風へ子の夢ぽうつと浮いてゐる
言ひ負けて子の齢を訊く子煩悩
子を連れて暫し口あく満員車
雲真紅孤愁もここに極まれる
子も産まず子を欲しがらず夫婦食ふ
冬の犬すべてに飢ゑて風を咬む
口あいて父も昼寝の齢となり
外食券一枚自らをまもり
来るぞ来るぞ幻の魚美しき
冬の街深川の姉マスクして
酒の翳友の盃にもありし
日本語だ素敵上陸第一歩
一月の米はあらかた飲むべかり
庭の陽炎も微熱の子に眩し
松の内月は銀ほど尖つてゐ
守札昼寝する子の脇の下
書きにくい筆らしいけど提灯屋
まだ天に勝つて被告はあざ笑ひ
運転手客へ気になる後頭部
貧乏に負けぬ子の眼の人を射る
饅頭屋もう氷屋の客がゐる


by nakahara-r | 2006-01-01 10:26 | 川上三太郎『孤独地蔵』

なかはられいこ 川柳と暮らす


by なかはられいこ
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31