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定金冬二『無双』ミュージック

-ミュージック(昭和50年~58年)-
折り鶴が翔ぶ青空が痛くなる

虹が出てすこし継ぎ足す縄梯子
火を消すとあざやかになる火の掟
流れ人ここから先は地のいのち
味方だとおもうか背中ばかりの絵
人を打つまねをときどきする仏
赤子よりうまい微笑をしてみせる
転がってしまうとぬくい他人の眼
メス錆びるうわさ話が多すぎる
言い訳のかわりに高い木に登る
捕われて有縁無縁の坂より風
梅干をいくつか持って逃亡す
今は勝ったとおもわせておく木の雫
人の名を呼ぶうつくしき修羅の中
魂にまで届かない縄梯子
河の向こうに絆があってはにかんで
風が出て妖しきものは我が両手
手錠より縄のぬくさに縛られる
バイブルの中にも内緒ごとがある
なんとなく人の世がある水ぐるま
化粧してまっすぐ歩くことはない
玉手箱のけむりをみんな持っている
嘘にきまっているけれど花束を
棘の木に棘ありやすらかに眠る
狐は死んで自動ドアはすぐ開く
生年月日と関わりのある車井戸
嘘つきのもっとも好きな草だんご
決定的瞬間がある 麦畑
たんす長持ち持って行くのはまつりの絵
てのひらで亀も兎も眠くなる
障子から顔を出すのは悪い猫
竹の井戸 竹の音してむかしがある
台所には包丁があり 放浪す
歩いても走ってもある地の掟
鬼の絵をめくると水の音がする
密告者 脚の弱さを哀しまん
風の絵馬 行方知れずの子を捜す
影法師ことばが溢れそうになる
悪を追いつめるとドガの絵にあえる
彷徨の花はむらさき眼をあけよ
許されてから赤とんぼ赤くなる
子守唄バケツの水は重かった
乳母車むかし答えを持っていた
母に逢いたくて風船売りになる
ポストの向こう側に帰れぬくにがある
駅前の花屋を敵にせぬことだ
燈台が見えてやさしくしてあげる
哀しみがありすぎて買う赤い櫛
縁あってポキリと折れる木を捜す
珈琲屋でときどき光るヴァイオリン
鬼灯のいろを味方にして休む
通りすがりの堀の深さの子守唄
自転車に空気を入れる隠さずに
某日のオルガンさっと受胎せり
婚姻届と笑いつづける生たまご
妊もって桜並木のさくらたち
この川をきっと渡って子を産んで
雨降って雨乞い夫婦禁を解く
人間誕生しずくするのはすべての木
わが家より明るい沼で子を堕ろす
木馬子を生んで寂しいことばかり
花びらも泪も落ちる音を持つ
ときどきは水に溺れる水ぐるま
ああ夫婦玩具の箸を持たされる
対岸の夫婦も石を積んでいる
女王陛下がほしがっている生卵
鉄橋が好きで王様にはなれぬ
サーカスの犬ことごとく犬である
卵屋でたまごを数えたりするな
風は他人の空似をすこし押し戻す
壁は修羅 鬼の草鞋が掛けてある
火を焚くと帰りを急ぐピアノ弾き
橋のむこうも哀しみがあるヴァイオリン
樹の蔭を出て行くぬくい紙芝居
森は雨でピエロの宿る樹を濡らす
バスケットボールを持って隠れよう
ヌード館出て急に翼が欲しくなる
名画展終わる地の果てまで歩く
躓いた石を物語りにしよう
落とし穴の鬼も神父も上を向く
空中ブランコなさけが雨のように降る
柱時計もぽっくり寺の方を向く
沈黙を守るナイフと老いた猫
壷の闇こころの闇と響きあう
落書きの太郎花子よ幸せに
笑うことがすこしはあってふり返る
哀しみで丸くなる虫まるくなれ
ピンセットではさむと風が痛いという
島の人 固い笑いをかえすなり
復讐は紙の兜を折ってから
投げ縄は縄の匂いで輪をえがく
そしてお前妻よりぬくい眼をするな
馬の写真を馬に見せると横を向く
人は叛き象はたしかな芸をする
峰打ちをくらって隣から戻る
坂は雨人を許して雨にあう
恋唄や月夜のナイフ重くなる
神は耳かきが欲しくて木を倒す
地の果てのランナー首を洗いおり
激痛や 朱の面はいま朱に還る
蝙蝠傘をわざと忘れて 復讐だ
天をさす指 地をさす指もなさけかな
火まつりについて行くのは他人の子
うどん屋の椅子から刑務所が見える
船を押すキリストよりも重い声
月蝕や 巻き返すのはいまのうち
サンドイッチマンも象も寂しいから歩く
暗い柱はいつも暗くて 子守唄
穴掘り人夫の唄が聴こえるぬくい家
火の見櫓の上のまじめな他人かな
ピアノ終わり色事師たち翳を持つ
さらし首 神よりぬくい汗をかく
月光や 少年あくまでも雫
瞽女の杖あかるきものを少し持つ
葡萄皿 祈りは遠くより届く
ぼくの鬼さびしくなればぼくを呼ぶ
始めから終わりまである泣き黒子
魂を売り渡す日もめしを炊く
莫迦な日はめしをすこうし多く炊く
君が代を唄ってもどりめしをくう
私のうしろで わたしが鳴った

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by nakahara-r | 2009-06-17 01:04 | 定金冬二『無双』

なかはられいこ 川柳と暮らす


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