カテゴリ:短歌( 5 )

ひとさらい

笹井宏之歌集『ひとさらい』から個人的に大好きな作品をご紹介。
絞り込むのがむつかしいほど惹かれる歌が多いのですが、むりやり絞りました。


えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい

からすうりみたいな歌をうたうから すごい色になるまで、うたうから

この森で軍手を売って暮らしたい 間違えて図書館を建てたい

拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません

それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどのあかるさでした

両親が出会ったという群青の平均台でおやすみなさい

一生に一度ひらくという窓のむこう あなたは靴をそろえる

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

晩年のあなたに窓をとりつけて日が暮れるまで磨いていたい

あまえびの手をむしるとき左胸ふかくでダムの決壊がある

胃の中でくだもの死んでしまったら、人ってときに墓なんですね

運河へとわたしのえびが脱皮する いろんなひとを傷つけました




26歳の若さで夭折された笹井さんの、今日は命日です。
Twitterには歌人さんたちや笹井ファンの人たちが持ち寄った笹井さんの短歌がぞくぞくと流れております。
悼みは悼みとして、わたしのなかにも確実にあるけれど、
あんまり神格化?(ってゆうのはオーバーだけど)されてほしくはないなあと、思ったりもします。
紹介しきれなかったけど、おちゃめな短歌もいっぱいあります。
もっと読みたいひとはこちらで買えます。



歌人の村上きわみさんとコラボしていたきりんの脱臼にゲストで書いていただいた笹井さんの短文もご紹介しておきますね。

おまけに目次も
ずいぶんむかしのことになりました。なにかしたくてたまらなかったあのころ。
なつかしいです。
初見のかたにお読みいただければさいわいです。




というわけで、新しいパソコンつながりました。
メールの送受信ももんだいありません。
サポートセンターのおにいさんに感謝。
by nakahara-r | 2014-01-24 16:16 | 短歌

題詠マラソン2005

001:声
泣き声をあげないように手から手へ蝉の抜け殻わたってゆくよ

002:色
暮色いまわたしのゆびをすりぬけてあなたの息にまぎれてしまう

003:つぼみ
かたわれと思うからだを離すときつぼみのままでこぼれることば

004:淡
淡彩の時間は流れどこまでもほんの家族のままでいましょう

005:サラダ
さらさらと過去になりますわたしたちサラダボールにレタスを盛って

006:時
ひよどりが一羽来たりて去る時の枝のふるえをおぼえていてね

007:発見
星よりも雨は親しい雪もまた、空に発見されないように

008:鞄
鞄からノート取り出すようにして冬の記憶に外気をあてる

009:眠
きのうふたりで名前をつけた街路樹につながれたまま眠りにおちる

010:線路
終電のあとの線路をあるいたね空にも海にも属さない青

011:都
ふりむけば都忘れのむらさきが揺れておりますしきたりとして

012:メガホン
グランドに投げ捨てられたメガホンといつか置き去りにした犬と

013:焦
おやゆびを口にふくめば早春の空の焦げゆく匂いとおもう

014:主義
主義なんてぽんぽんだりあワタクシはしどろもどろに暮らしております

015:友
液晶に「友」という文字あらわれて今宵ひそかに散る木蓮よ

016:たそがれ
もう帰る、もう帰るねとたそがれにまぎれる前の声だけがある

017:陸
大陸のかたちをなぞるゆびさきが宙でとまって秋がはじまる

018:教室
消えないものも消えゆくものも一列に並んでいつか教室を出る

019:アラビア
「アラビア」と発語するとき上下するあなたの喉に青い魚いて

020:楽
点滴のチューブ伝って音楽がわたしの身体に満ちる十月

021:うたた寝
うたた寝の額にかるく手をあてて夢の温度を計っておりぬ

022:弓
弓と矢ののちの時間をぼくたちは過ごすやさしいさよならを重ね

023:うさぎ
さっきまで飛行機だった紙はいま白いうさぎに変わるさいちゅう

024:チョコレート
やくそくはもひとつあってチョコレート口に含めば角から溶ける

025:泳
脱げそうな水泳帽を押さえつつたどりつけない場所があること

026:蜘蛛
蜘蛛の巣はうつくしいから何度でも同じところで出逢いそこねる

027:液体
ボクというひとつのかたち保つため揺らさぬように運ぶ液体

028:母
らいねんの春には母になるひととコップの中でうまれるひかり

029:ならずもの
いちめんの泡立草に囲まれてならずものにもなれないおまえ

030:橋
いままでに渡ったはずの橋の数、交わしたはずのやくそくの数

031:盗
柿の実は夕陽を浴びてつやつやと盗まれること夢想している

032:乾電池
乾電池一本ぶんのちから持て アナタガスキダ、アナタヲスキダ

033:魚
抱きしめる腕がないから魚にはなれないふたりニセモノになる

034:背中
台本に書かれたような朝が来て、さよなら背中、肩の糸くず

035:禁
禁じればあんしんできるひとたちが夜更けに啜るあまいみずです

036:探偵
灰色の脳細胞の探偵がぼくらの夏を捜してくれる

037:汗
汗ばんだあなたの胸に触れるたびちいさな森を産みそうになる

038:横浜
横浜にともだちがいて横浜は群青である今日も明日も

039:紫
あけがたの紫陽花いろに濡れている鍵つきのドア嘘つきのドア

040:おとうと
おとうとと花火したことうすぐらい部屋でなまえを呼びあったこと

041:迷
迷うだけ迷うがいいよここにいて外を見ながら待っててあげる

042:官僚
ぬばたまの夜の官僚宿舎なれ規則正しく寝がえり打って

043:馬
感情という名の馬がつぎつぎと第四コーナー曲がり終えます

044:香
梅の香のガムを一枚差し出され言いたかったこと忘れてしまう

045:パズル
「あ」で終わる五文字のことば日常をパズルみたいに組み立てながら

046:泥
にちようはあえませんから泥つきのお芋のように転がってみる

047:大和
汚れたら洗えばいいさたましいもそらみつ大和、男子のおへそ

048:袖
袖口がなんどもなんどもずり落ちて金木犀の季節を告げる

049:ワイン
らいねんの(梨+ワイン)じゅうがつの(虹-コーラ)ぼくらについて

050:変
常温でしばらく置かれ肉塊はとまどいながらかたちを変える

051:泣きぼくろ
柳ヶ瀬は濃尾平野の泣きぼくろフィリピーナがぺたぺたとゆく

052:螺旋
蔓草の螺旋に抱きしめられていてカーブミラーはしあわせでした

053:髪
液晶に花びらが降り雪が降りしずかに髪をなでられている

054:靴下
お祈りのかたちになって靴下を脱ぐまめでんきゅうのあかりの下で

055:ラーメン
ややこしいふたりになってしまわぬようラーメン食べに出かけましょうね

056:松
出さなかった手紙に切手貼るようにグリーンサラダに飾る松の実

057:制服
制服の紺は無実を主張する秋の陽射しを吸い込みながら

058:剣
剣に似た葉をもつ花をたずさえてゆらゆら歩く豊臣通り

059:十字
十字路を右に曲がれば海に出る眠ったまんま運ばれてゆく

060:影
さみしい影とさみしい影が重なって銀杏並木は背筋を伸ばす

061:じゃがいも
じゃがいもの皮剥きながらあきらめるわたしのははもははのわたしも

062:風邪
風邪声のあなたが語るいちにちは雪、はるかな海に降っては消える

063:鬼
れいちゃんが鬼ねと言われ鬼として、たぶん今度もまちがうだろう

064:科学
そうですね、たとえば科学館にある化石の貝に陽が射すような

065:城
たゆたゆと水のお城になっているあなたの前で目を閉じている

066:消
まちがって消してしまったメールにも芒そよいでいたのでしょうか

067:スーツ
ほんのりと雨の匂いのするスーツあたまあずけていればよかった

068:四
掟みたいに四つ折りにするハンカチとさみしいといういまのきもちと

069:花束
花束を抱かされているとりどりの花の述語をかんがえながら

070:曲
アンダースローで放られた鍵うつくしい曲線を描きふたりをつなぐ

071:次元
週末は二次元に棲むこいびとの指の先からかすれてゆきぬ

072:インク
群青のインク一滴紙に落ち捨てるってことはなんてかんたん

073:額
つめたい額寄せあってするさよならは、あれは鮫の泳ぐ水槽

074:麻酔
ゆうぐれの空に麻酔がかけられてこんど生まれるときもひとり

075:続
にごりゆく水のぬるさを受け入れてこの日常は続くのでしょう

076:リズム
こきざみにリズムをきざむ片膝のまわりに蝶がうまれ続ける

077:櫛
月光の触手が櫛に伸びるときあなたの夢に銀杏降るとき

078:携帯
さみしさを携帯してる待ち受けの画面にさくら咲かせたりして

079:ぬいぐるみ
ぬいぐるみのくまのお腹を縫い閉じるけんかができてうれしかったよ

080:書
書かなかったけれどありがとうきんいろの稲たち風に靡いています

081:洗濯
日に灼けた洗濯ばさみもろくって、とてももろくて、鳥になれない

082:罠
家族という罠はすずしく匂いたちころがっている洋梨ふたつ

083:キャベツ
晩秋の午後はひとりを引き受けてあまくなるまでキャベツを煮込む

084:林
ひそやかに林檎は蜜をためている言わないことと嘘とはちがう

085:胸騒ぎ
胸騒ぎしずまるまでをまなうらのえのころ草と揺られておりぬ

086:占
濡れたまま傘は畳まれ占いを信じてみてもいいなと思う

087:計画
たまねぎを計画的にきざみつつちがうところが泣いてる日暮れ

088:食
秋色に侵食される町をゆくビーズみたいにつながりながら

089:巻
何回も巻き戻されているうちにうそつきになる記憶のように

090:薔薇
白薔薇、雪の結晶、きみの眉、ときに世界は手におえなくて

091:暖
もういない犬の名前を呼んでみる暖かい舌おぼえているよ

092:届
ていねいに梱包されたまぼろしの家族が届く十月二十日

093:ナイフ
しんとした種を抱ているおんなたち果汁に濡れたナイフを拭う

094:進
さわさわと芒原のまんなかを黄色い帽子の行進つづく

095:翼
みんなみんなじきに忘れてしまうから真昼の月を切り裂く翼

096:留守
留守番電話の赤い点滅(なつかしい)ともったり(声が)きえたりして

097:静
静かだね静かだねと言い合ってかたほうずつの貝殻になる

098:未来
未来しかみてないふりをしつづけて丘のポプラは海にあいたい

099:動
まだ動く、もう動かない、羽虫は羽虫としてえいえんを見る

100:マラソン
ちからある腕に抱きとめられること信じてマラソンランナーは走る
by nakahara-r | 2005-09-21 11:30 | 短歌

題詠マラソン2004

001:空
いつだって空を感じていたかった額にふれてとけるあめゆき

002:安心
安心ねって目を閉じたままくらがりにぼんやり浮かぶ風鈴になる

003:運
階段を二段とばしで駆け上がるとばした段に<運命>がある

004:ぬくもり
さんがつの銀河あなたは散らばって喉を落ちゆくぬくもりにがい

005:名前
とぎれとぎれに名前を呼ばれぼくたちは気泡まみれの水仙の茎

006:土
ごめんって言われてしまう重ねても土踏まずにはさみしいすきま

007:数学
数学の一問として横たわる静の海になずきを浸し

008:姫
歌姫のソプラノ細くたなびいて洗濯ロープにゆれる靴下

009:圏外
ゆびきりのゆびを離せば圏外の桜しずかに散りゆく気配

010:チーズ
あしたには葉桜になるそのようにチーズについた指紋のことも

011:犬
とおくまで行ってしまった犬のため夜明けの空に真綿を詰める

012:裸足
知らない町の知らない駅に立つようにあなたが裸足になるのを見てる

013:彩
言わなくていいよとだれか水彩のうっすら青い声でささやく

014:オルゴール
いつだってとちゅうで終わるオルゴール振り向いたまま消えてゆくひと

015:蜜柑
缶詰の蜜柑みたいな月が出てせつめいすれば嘘になるから

016:乱
にんじんを乱切りにする春の午後 欅並木に呼ばれたような

017:免許
免許証の写真たがいに見せ合ってあくにんづらをかくにんしてる

018:ロビー
ぼくたちの語尾をしとどに吸い込んでくちなしホテルのロビーは日暮れ

019:沸
ふさいでも蝶がつぎつぎ沸いてきて鱗粉まみれのメールボックス

020:遊
よく冷えたエヴィアン水のボトルから虹をそそいで遊ぼう、もっと

021:胃
「このへんが肺、このへんが胃」べつべつの器のなかにいくつもの月

022:上野
いつかくるおわかれのため上野には緑にけむる噴水がある

023:望
テーブルを叩いてリズムとるゆびをみている喜望峰は(たぶん)、雨

024:ミニ
ミニストップのレシートいちまい手の中でじんわり湿る(しあわせだった)

025:怪談
怪談のおんなはみんななつかしく底に沈んで見えないガラス

026:芝
ベランダに人工芝を敷き詰めてちちははが住む秋はすぐそこ

027:天国
むかし渋谷の歩行者天国あの時期を塗りつぶすなら萌黄がいいな

028:着
試着室のカーテン揺れて五分後のわたしが出てくる、きっと出てくる

029:太鼓
ぼくたちはいろんなものを取りこぼし(((サルのシンバル(((ウサギの太鼓

030:捨て台詞
捨て台詞(並)でよければすぐにでもご用意できます、サインはここに

031:肌
いちまいの肌だけでしたここにあるものとないもの分けるとすれば

032:薬
粉薬のむとき上を向く顎にダンディライオン触れておくれよ

033:半
いまぼくはト音記号であなたより半音さがったところにいるよ

034:ゴンドラ
ゴンドラが揺れやむまでの数秒を恋人として旅人として

035:二重
手放すと見失うから『わたくし』を二重括弧でくくっておくの

036:流
濁流をふたり見ているかがやきは雲母みたいに重なっている

037:愛嬌
夕空に迷子みたいな雲が浮き愛嬌ってのはこういうものか

038:連
ゆうごはん終わりましたか連絡は済ませましたか今夜の月に

039:モザイク
生きている火の色が見たくてとても見たくて爪でモザイク剥がす

040:ねずみ
はねねずみ、いたずらねずみ、こまねずみ、君が子を語るときひらがな

041:血
鰯の血ブロッコリーの血わたしの血みんなまじって食卓は海

042:映画
映画から帰ってきたの新品の歯ブラシみたいな気分になって

043:濃
うんと濃いお茶を淹れましょ黄昏の空にまぎれてしまわないよう

044:ダンス
えんえんとフォークダンスの輪は廻り今年さいごのひまわりの種

045:家元
家元が家元らしいくちぶりでBBSに意見のたまう

046:練
そのうちに金木犀がにおうから名前呼ぶこと練習してる

047:機械
しろがねの開閉式のまぶたからしずくをこぼし機械は眠る

048:熱
手のなかでふるえつづけるケータイの微熱ここからひとりで歩く

049:潮騒
潮騒も砂もこぼれてしまうからボタン首まできちんと留める

050:おんな
小説のおんなのせりふはらはらと落ち葉している午後であります

051:痛
痛いのはそこではなくてもうすこし右、オリオンの三つ星の下

052:部屋
ゆうやみの息づく部屋でぼくたちの銀杏並木は育ってゆくよ

053:墨
記憶なら記憶のままで柿の木の薄墨いろの影を見ている

054:リスク
あわだちそうがあわだちはじめこのたびのリスクについて話しておこう

055:日記
主語のない日記を書いているような昨日のわたしが洗剤を買う

056:磨
磨かれたガラスさみしいくっきりと町の輪郭透けてさみしい

057:表情
またそんな表情をする錠剤がぐずぐず水に溶けてくような

058:八
おたがいに「ごめん」って言った瞬間の生八つ橋のニッキの匂い

059:矛盾
左手と右手はいつも矛盾して胡椒の砂色バナナの黄色

060:とかげ
冷えてゆく部屋の空気をふるわせてくちうつしするちいさなとかげ

061:高台
高台のバス停に立つ青桐と雪降る町の話をしてる

062:胸元
ゆきちゃんの胸元あたりがそよぎたち嗚咽のような鳥が生まれる

063:雷
順番に消えてゆくもの並べてる(遠い雷鳴)(こがねのゆびわ)

064:イニシャル
イニシャルが彫られた指輪に触れるときひんやり青い鈴が鳴ります

065:水色
水色のちいさな息をひとつ吐きしぼんでしまった僕の姉さん

066:鋼
とうめいな鋼の羽を折り畳み正座しているこうべをたれて

067:ビデオ
もう二度と帰らぬひとが微笑んでビデオのなかのすすきが揺れる

068:傘
一本の傘と二本の歯ブラシにこの夜さいごのひかりがあたる

069:奴隷
愛された奴隷のような日没の駅舎の前の陸橋わたる

070:にせもの
にせものがにせものとして生きるため色とりどりの100円ライター

071:追
追われたり追ったりしたねコスモスの畑でふたり花粉にまみれ

072:海老
甘海老のあたまちぎれば流れ出すセンチメンタルシティロマンス

073:廊
ぼんやりと足下ランプに照らされてヨモツヒラサカ廊下はつづく

074:キリン
きりん・キリン・麒麟と変換されてゆくこわかったねとささやきながら

075:あさがお
「あさがお」ときみが発音するときの空いっぱいにひらく朝顔

076:降
遮断機が降りきるまでの数秒を過不足のないこいびととして

077:坩堝
わたくしの坩堝が生んだおとこのこ丘に立ってるポプラのように

078:洋
東洋の裸体くまなく受け入れる薄荷煙草の匂いがしてる

079:整形
ゆうぐれの下校チャイムのせつなさと整形外科のチラシのチカラ

080:縫い目
うつくしい縫い目を持ったこいびとがあけがたに来てわたしをほどく

081:イラク
白地図のイラクに色をつけるためみんなで持ち寄るクーピーペンシル

082:軟
振り向くとちょっぴり痛む日常の柔軟体操いちからはじめ

083:皮
いちじくの皮を剥いてるこのゆびがむかし愛したサウザンクロス

084:抱き枕
抱き枕いつつあつめてくみちゃんは入眠儀式のろうそくともす

085:再会
それまではいっしょにいよう春楡と風が再会するのを見よう

086:チョーク
アスファルトにチョークで描いたカナリアが羽根をふるわせ冬がはじまる

087:混沌
翌朝のすき焼き鍋の混沌とマーブルチョコの黄色を愛す

088:句
月彦の句集を開く午前二時 電気羊の夢として、雨

089:歩
お祭りは終わりましたね部屋を出て歩きませんかなにも待たずに

090:木琴
木琴の音にまぎれておとうとがしずかに泣いていた晩秋

091:埋
紫陽花の根元に埋める父さんに青い付箋を貼っておきます

092:家族
家族からわたくしを引く真夜中のぎゅーんと音する冷蔵庫から

093:列
一列に並んでうっすらももいろに変われるときをじっと待ってる

094:遠
遠くまで行こうとしてたサボテンはかがやく棘を夜空に向けて

095:油
哀愁の菜種油をたらしつつフライパン振るミセスロビンソン

096:類
類別にふり分けられて運ばれて月の砂漠に降ろされました

097:曖昧
からすうり握ったまんま曖昧に笑ったまんまおわかれをした

098:溺
琥珀のなかの蟻は溺れたのでしょうか誰かと住んで窓にともす灯

099:絶唱
絶唱に濡れてしまった胸部から赤いリボンがするする伸びる

100:ネット
ぼくたちはなんども生まれそこなってインターネットの海に浮かぶよ


おまけ。
101:完走記念
投稿のボタンを押せばなつかしいひとが手を振る100の窓から
by nakahara-r | 2004-09-21 11:31 | 短歌

三分のちの世界を見てる

「角川 短歌」平成15年 8月号掲載



最後まで消えなかったね。右下にずっと映っていたよね、蛍。

ゆきちゃんの喉を出てきた月という月を見ている6月8日

こわいよう、こわいよう、という声がしてサンドイッチの胡瓜を剥がす

ポストまで抱きしめてゆく封筒は「僕のマリー」を歌いつづけて

泰山木の花びらが散る道に立ち三分のちの世界を見てる

ぷるるんとふるえたまんま抱きあって住民票をくださいと言う

金曜の予定を書けば金曜は白いひかりを放ちはじめる
by nakahara-r | 2003-08-21 11:28 | 短歌

あねもね地域連絡網(抜粋)

第一回「歌葉」新人賞 佳作



「あしたね」ってだれかが言って彼の国の丘のきりんは脱臼したの

 屋上のフェンスの錆をつけたままつないだ手から繭が生まれた

 桜吹雪にときおり混じる獣語を解読せよと指令がくだる

 えんぴつの芯には龍の成分が混じってることだれにも言うな

 密林に雨が降ります押入れに発酵まぢかの虹があります

 どうしようもないことだけでできているアネモネだから夜を壊そう



 うっすらと時間が積もるソファには青くしたたる鮫が寝ている

 人喰い鮫が出てくる前の海に似てしんとしずもる春のキッチン

 陽に灼けた洗濯ばさみがわたしですカナリア色のタオルをつまむ

 サンダルのかたいっぽうはサバンナに昇る朝陽を見に行きました

 一滴の水でゆるゆる立ち直るストローの袋、遠い銃声

 傘の骨、曲がってますね。壁の色、ペールブルーになるはずでした。



 死にたがり病の羊を追っているマーブルチョコをばらまきながら

 お父さん、みな葉桜になりました。背中の痣もあなたの声も。

 ゴム跳びのゴムがびゅんびゅん鳴るような風にまぎれる祖父母のなまえ

 家族って包帯みたいたゆたゆと満ちてくるのは水藻の匂い



 ぼくたちの言葉は長い旅に出て雨や光になるんだ、たぶん

 一条の光が射してたったいまボトルシップは出港しました

 宣誓の樹はまっすぐに陽を受けてここにはいないひとに微笑む

 星形の注射のあとをてがかりに一万年後の渚で逢おう
by nakahara-r | 2002-05-21 11:33 | 短歌