だんだん黝く

 だんだん黝く

水族館の魚の中にも怠け者
日本酒の乾盃に手が大きすぎ
蒼白な顔で遁辞の次の嘘
青春(はる)烈し瞳から唇から言葉から
別室に右翼が詰めて総辞職
はにかみと闘志の中に女子選手
初霰日は椎の樹に暮れ残り
不良少女妹の瞳が胸を刺し
手拭に似たもので拭く鳥料理
叮嚀にお辞儀をされて妻に訊き
冬の土雑草ももうもろくなり
病む姉の方から話す神のこと
雪の声はや聴くすべもなく哀し
おほよその見当へ出る心太
嫁ぐ日が迫つて耳がすぐ染り
友だちの妻へ妻からことづかり
二階から見るとつまらぬ藤の棚
川沿ひに一つたしかな残置燈
担いでるやうに寝てゐる肱枕
炊出しもやつぱり寝ない眼の赤さ
五寸釘日曜大工どうする気
これも友月一割と巧い事
立志伝親孝行をしそこない
駅へ吹く馬車の喇叭も小十年
煙突の煙もゆたかに増資説
金魚売若葉を青く紅く抜け
クリスマス暖かさうな窓は雪
日曜の足下駄穿いてたのしがり
雪の春見る見る光る一軒家
子らやがて身じろぎはじむ夜あけがた
柘榴の芽春へぱちぱち火華する
お師匠さんがゐるきりきりと舞ひをさめ
凡聖一如一月一日はしづか
沈丁花白猫の瞳の妖しかり
雷鳴に顔すら出さぬビルデイング
金借りる土産が海苔の缶一つ
キス釣りに揃えた膝の細さなり
トタン屋根少し上つて無事に下り
夜が明けて鴉だんだん黝くなり
酒とろりとろり水のむこと三日
あかつきに富士恍とありすでにあり
踏切の柵に乗つかる馬の顔
朝の陽に湖きらきらとひろがれる
お元日今年もたのむ机拭く
病室はしんしんと粥煮えてくる
松の花強くするどくひよこ鳴く
稲光白昼かとおもふ竹の数
ひよこ二羽心ぼそくもたより合ひ
南無大悲第二の故郷はエンコです
しらゆきがふるふるふるさとのさけぞ
剃刀にわが子の産毛いつくしむ
椎の昼春の汽笛の掠め去る
パンスケの耳たぶうすきイヤリング
おばあさんに所詮かなはぬおぢいさん
落し物だんだん風が出て暮れる
それぞれを芽にして大地知らぬ顔
タイピスト叩く頸が社長から
妹が諫める涙膝に落ち
薬もう飲まなくていい日のうつろ
一月の風と闘ふうす光
午前十時主婦にひとときある憩ひ
酔ひざめの水の眼だけど子の寝顔


by nakahara-r | 2006-01-01 10:14 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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