ひらひら春の

 ひらひら春の

病人へとてもメロンが高すぎる
覗き込む鼻へしたたかコンパクト
紅葉狩り春は桜を折つた群
柏手は家内安全のみならず
片親の子も手伝つて物を干し
転寝にちと口あいた新夫人
馬方も万策尽きた馬の腹
もう子供一年生のお辞儀をし
集団見合ひ去年と同じ齢で済み
下役にその下役がまた媚びる
娘たちひらひら春のつむじ風
返信料付うまく出て来ぬ十五文字
ホツトドツグ二十分ほど腰をかけ
口まげて今日の課長は言ひ募り
女理学博士の文字の勁さを見
カレンダー動物になり虫になり
石の門疑獄の夫人齢が上
家中でみんな歩いた水の味
教会はたつた五人で声を出し
空気枕畳んだ中にある空気
踏切番老ひ白い旗これも老ひ
フケを取るしかめつ面も十二月
刀鍛冶潔斎をして鶴の如
鶏の親子食ふことのみに歩いてる
影法師一つが立つて寝る支度
風それずすすきの中にうづくまり
出さなかつた手紙の中の国訛
党顧問社説のやうな事を言ひ
晴雨計暫く立つて感に耐え
掛茶屋の犬は首輪もなく育ち
番台の亭主が青い染硝子
仲見世の雨はそのまま灯に染り
夏の風呂しみじみと見る父の尻
脳病んで耐へがたき菜の花ざかり
晩婚の靴に慣れたる脚細し
春が来た市場の野菜みな青し
やはらかな風やはらかな家鴨の子
あちらにも弥次馬がゐるテレニユース
油虫これでは薔薇が可哀さう
接骨医腕力も要るものと知り
集金に慣れた鞄の持ちおもり
姉妹の靴は会社へ学校へ
戸を閉める社宅揃って音を立て
どぜう汁飯食ふ土工髭が生え
鳶の翼うすく渺渺屋根を圧す
東京にこんな夜もある星一つ
ハンモツクわざと鼾をかいてみせ
親の恩海と山とで案じさせ
ソーダ水笊をつぶしたやうな帽
満潮にいつもの石垣が濡れる
奉公も母娘二代の柳行李
ほととぎすここから先は日本海
燈籠が売れて石屋へ陽があたり
うしろから呼ばれてすくむ長廊下
腕時計裸体になつてフト気づき
日本海狂へる蝶の光るあり
人間を乗せて引越し暇乞ひ
スチユアデス英訳をする今日の富士


by nakahara-r | 2006-01-01 10:15 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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