あなたの青春

 あなたの青春

伝送の写真ボツボツ顔になり
転業のいつそ気安い服で下駄
三度目のお預け犬は帰りかけ
音響制限法に教祖はこだはらず
お迎火浴衣が長い次女三女
卒業をして本箱を広くする
その外の芸は持つてる怠け者
白菊の一等賞に見る驕り
近道をして待つてゐて同じこと
長男に店を任せた竿の先
万歳を片手で済ます紙テープ
犯人の脚と刑事の脚の泥
アパートのお茶はコツプで母へ出し
青空やあなたの青春にぼくの青春
鋼鉄に落ちたコツプの破片光る
豪華船昼を欺く海となり
それぞれにたたみいわしは貌をもち
花嫁が来た来た来たよ裏通り
母と住んでつくづく母は薄命ぞ
名人は口もきかずに湯へ出かけ
左きき倅は右で箸を持ち
急用に二三度動く咽喉仏
有名になつて葉巻もむらさきに
よく燃えぬ焚火みんなで涙ぐみ
夜が明けたけれど豆腐屋手暗がり
ラヂオ体操子供の声と親の声
頼信紙役に立つてる左の手
リノリユームあれは社長の靴の音
両手かける眼の見えぬ娘のスープ皿
肘枕不景気に馴れ雨に馴れ
病人の身体の長さだけ温み
百姓の字でよし米の詩が生れる
独楽のするどさが微音微音微音
も一つのあたまでたどる二日酔
母校とは父子二代の庭の樹樹
嬉しさに引くり返る犬の顔
居候標準語だけ身に残り
運動会幼き頃の青い空
稲の穂に知る日本の夏の土
五ツ紋家系を誇る白皙な
影法師書斎にしても動かざる
風が出てきて白鷺の顫ふやや
子沢山一人の帯はタテ結び
友だちの顔好きな顔好きな声
天守閣農工商へ驟雨する
蝶々のはるばる来たか憇ふ呼吸
代役を労はつてやる一幕見
亡き母の本から落ちた銀杏の葉
先代が開拓をした人通り
十八歳以下でなくとも刺戟され
驟雨あがつて白牡丹かな雫する
立志伝非道の伯父の名は変へる
晩酌も嬉しい猪口の置きどころ
変人に根負けがした犬の顔
探し物だんだん腹が立つてくる
葉がキラリ光つたつきり冬の椎
箸は箸箱に独りの夜となり
裏通り痩せててとても吠える犬


by nakahara-r | 2006-01-01 10:16 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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