一本の葦より

 一本の葦より

雷へどうにもならぬ膝を抱き
ランドセル今日写生した画がはみ出
町ことば娘のくせに水を飲み
貧しさを見たり火鉢の懐炉灰
青空の下の母子に草摘まる
アベツクも団扇持つたは夫婦づれ
母笑ふ母の短歌の頃の齢
食堂車子供ばかりに喋らせて
出勤のあと新聞に居崩れる
息子のを借り靴下の派手な脚
子を抱いていつかかたちも父となり
子の鼻に皺が二つ好いお顔
絆創膏はじめくれたは小さすぎ
初奉公妹がくれた便箋で
居候君は昨日の雀だな
刈り終えて案山子も家族土間に寝る
迷ひ犬残念ながら猫に負け
蒟蒻屋桶へ肱まで入れて売り
昂然と棄権する子に言ひ負ける
慌て者とにかく水を飲ませられ
尼寺の早寝へ月が銀のやう
赤とんぼ二匹づつ虚空に静止
アジビラに飢といふ字が多すぎる
分譲地そのまま風の秋になり
解散で故郷へ襤褸を着て帰り
愕然と女中転寝からさめる
鳩あまり降り立ちすくむ女の子
高い丘わが子の両手みなあがり
昨日来た女中のモンペ身について
北風に子供も今日は家にゐる
手を執つていただいてゐるマニキユア
一本の葦より怖い稲の折れ
犬に見る生命といふすさまじさ
酒とろりおもむろに世ははなれゆく
肱突いて飲むおでん屋も五年経ち
引揚げへ御苦労さまの文字も剝げ
オルゴール愛は昔を今にする
蚊帳つるに梵妻白い肱二つ
二日酔鎌首というものをあげ
踏切番それから先は夢のやう
雑草に水なく石が石圧す
初奉公嘘をつかれた溜涙
利をつかむ学生野狐になりおほせ
冷然と秀才の道ただ一つ
河豚釣つて釣魚といふもの淋しがり
縁の下下駄も根よく履けるもの
オールスターキヤストで曲馬飯を食ひ
留守番の無念はあまり晴れすぎる
令嬢が拗ねてて廻り椅子廻り
風呂敷でお使をする犬の顔
蟇いまの地主に引継がれ
本職にする内職は可哀さう
豊作は五年配給二十年
箸紙にわが子のかしこまるを見る
婆さんを腰かけさせてちとよろけ
ハンモツクポコンと寝てる子の重み
のんでからもう一度読む風邪薬
物置の物にぶつかる冬の脛


by nakahara-r | 2006-01-01 10:17 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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