今夜のまどゐ

 今夜のまどゐ

玄関番残念ながら国訛
春来る進水船の名もYAYOI
曲がり角から迷ひ犬気が弱い
早起の眼に東京の寝てる屋根
雨に濡れ情痴高まる四十すぎ
ニツポンが空にふくれて桜咲き
兄の我が通り家中シンとする
代読の祝辞自分の名が言へず
けだものへ娘の母の軟化ぶり
団体は少うし冬の仕度もし
老僕の表彰されてただお辞儀
わづらつて悲しがる癖泣かす癖
萬葉集夕陽するどき塗机
踏台の時計人差指が伸び
商人に生れヘイヘイヘイと勝ち
ニツポンに集団スリの稼ぎ高
花活けて母が代つて返事する
古本屋やつぱりチヤンと眼が届き
蠅叩き寺でも慈悲は別と見え
番茶からはじまる今日もしづかなる
肉提げて今夜のまどゐこの中に
屋根に猫地に人午後の貨物駅
平和とは死せるが如し模範地区
黒蟻つぶつぶと庭を暑くする
転業も目鼻がついた底力
東方に国あり仁義人を刺し
老妻は潔癖にすぎ博士老ひ
裏通り新聞に出ぬ昼の火事
東京に生れ小声で済む小言
十二月子の脚長くほそき昼
わが腹が鳴つて侘しい応接間
女房に時計止つたまま三日
黴臭い東京の夜の貸布団
日本人花見に行つて花を折り
金槌で日曜大工指を打ち
旅に出てアンパンといふものを食ふ
ちと腹がへると見廻すひとり者
祝電は眩しい顔へ拡げられ
旧友と天丼二つ食つた齢
国宝になつて仏像居丈高
卒業式終り教員室うつろ
米櫃も久しい糠の四隅なり
女学生教科書にない東京語
樽柿は蟹の背中と同じ皺
そよ風に見る日の丸のやはらかさ
袖畳み衿の楊枝をまた言はれ
歓迎宴正客に見る旅やつれ
底抜けの相場ひたいに脂汗
学問は自由ですぐに歯を鳴し
師を訪へば眼鏡を拭いてただ見上げ
わが顔に夏なつかしや桐の風
無燈火の自転車ガタリガタリ行き
半島に菜の花多しかなしや菜の花
凉台済まないけれど親が邪魔
綸言にあらずきれいな口語体
自分のも一緒に包む給料日
竹屋から買つて出てきて眼がすわり
天に唾して兄弟に金が出来


by nakahara-r | 2006-01-01 10:24 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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