火元はひとり

 火元はひとり

海苔干場たんぽぽ一本が光る
膝の手が膝に食ひ入り母死なす
火から火を引きずり出して鍛冶屋打つ
子の靴がやつぱり小さいピクニツク
子を抱いて日本にある母の唄
寺一つ葬ひ一つ夏の村
弁当屋の勝手をふさぐ米俵
ぢいさんに大和魂まだ残り
丁度好い糸のへだたり糸切歯
悪友の口笛出て来い出て来いや
転業の日記余白を残すまい
天丼屋ギラギラとした茶をくれる
満腹の良人の背の用簞笥
迷ひ犬夢かと思ふ知つた人
モーニング故郷に憎い女性(ひと)がゐる
飯一粒一粒雀お辞儀して
ナプキンは皺ばつかりで出来上り
だしぬけに来た伯母さんのほがらかさ
赤ン坊の一日はよく陽が当り
哀願をしてゐるやうに錐を揉み
針金は二三度曲げて諦める
春の汗妻もモンペを穿いて知る
若菜まだ蝶蝶も来ず好い陽なた
六本の箸に親と子つつがなし
握り飯火元はひとり立ちつくし
ニツポン語から赤ン坊は言葉生む
伝書鳩もう蹴つてゐる主人の手
耕耘機火と化せるなる陽のさかり
寝すごした宿屋乾いた洗面器
ぬうと来て友だち喋りぬうと去り
わたくしの選んだ人を飼育する
家鴨の子今日は揃つて上を向き
髪洗つて背後の母に見上げさせ
金借りに行つた両手のつきどころ
泣寝入り二三度動く咽喉仏
夏の徑昼の螢を掌に乗せる
うしろから覗けば叱るバナナ売
腕時計手の甲を見るやうに見る
退屈へ飛行機ぐらゐ効き目なし
当選の写真検挙でもう一度
一一〇番柱に残る指五本
病人は寝たふりをする金のこと
わが子先ず初春の子になり緋の袂
老犬の眼と老妻の眼と和み
女プロレスSになりQになり
カナリヤを逃して知つた天高し
敬老会餓鬼の如くに食ふのみ
原因は子は親を親子を知らず
窓口へやつと手が出る子の貯金
待ち呆け散歩のやうな振りもする
屋上の羽子洋装が二三人
お師匠さんも口をまげてる一の糸
二日酔やつと出てくる日本語
踏台で金槌が来る間を焦れる
坊さんの学校派手な後頭部
通過駅風が残つてそれつきり
綱引きに娘の頃の力が出
新人を刺す批評家の仮名づかひ


by nakahara-r | 2006-01-01 10:27 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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