白牡丹と白猫

 白牡丹と白猫

カツとした飛出しナイフもう刺さり
小使にもつたいないと思ふ炭
人に犬に海に空気に春が来た
人一人ゐて起重機はブラさげる
人情家わけはとにかく坐らせる
実印へまだ病人はたしかなり
十二月今日も磨かぬ靴で出る
ぞんざいな友だちだけど小十年
総代の子の眼つぶらに読み終り
台風に工場地区の屋根低し
痩身のそれも消えたる白魚か
二日酔折れた袂の巻煙草
故郷の海苔は鎧のやうな海苔
むずかしい顔で歯医者と睨み合ひ
メタン瓦斯工場の池のたくましさ
週刊誌読みすててあり熱海ゆき
みなほどけさうに鮟鱇つるさがり
宮大工鳩に馴染んで今日も暮れ
貨物駅また暑い日が明けてくる
キリストの言葉すなほに聴ける齢
樹樹みんな澄んで大路の十文字
北風の極まる物置のうしろ
給仕長声高からず標準語
姉妹で気性が違ふ靴と下駄
甘い物如きに必死あみだくじ
インク壺雨の夜学の休みがち
一日がはじまる妻よ子の手とれ
一月一日今年の僕と酒の距離
女史あはれアクセサリーに坐りダコ
白一色燈籠の灯にふくむ翳
立った子を真中に手は四隅から
一物も得ずに捕まる非常線
溜涙東北人だから落ちず
硝子戸へしばらく地震揺れ残り
高い高いそら母さんが呼んでるよ
太平洋花束の花無駄に死す
店子にも権利があつて記事になり
春日を闘争の眼は三角に
写真機と屋根から落ちる昼の火事
寝台車向ふの客の顔に倦き
夕河岸はこのしろの数灯をふくみ
秋の子にもう三輪車ものたらず
冬の或日のあたたかい中にゐる
ゴムバンド今日も店主に拾はれる
倹約でなく重役は蕎麦を食ひ
誘蛾燈月に浮いてる一軒家
社長なんか怖くはないがゐない午後
信者敢て警察ぐらゐ驚かず
ボーナスに男の靨あなどられ
風呂敷にことづけるもの母多き
蓮花草酌婦のシヨール飛び狂ひ
行先をぶらつきながら考へる
居眠りの電車の首を肩に耐へ
春さかり遠き温室膨れたる
バラの樹にバラの咲かない苗を売り
健保法など用はないドツク入り
警笛に忽ち犬の逃げどころ
講演の速記解らぬまま覗き


by nakahara-r | 2006-01-01 10:29 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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