母の気を知る

 母の気を知る

軍国酒場みな勝ち組にして帰し
雪ン子をちらりちらりと悦ばせ
女房の手紙の中の子の育ち
日本刀さびしい秋の水の色
猿の檻一匹拗ねて食はずに居
すばらしい空気の下の居合抜き
凉台去年の艶で今年も出
節電も家中倖せな鼾
その上で死んでくだけの不動産
アパートのあさましきまで蒲団干す
修学旅行また東京へ濡れに来る
腰弁の君もやつぱりパチンコか
混み入つて来た立話場所を替へ
冬の客しばらくは表情の硬き
浮浪児の童貞わづか十五年
ラヂオ体操チヨイチヨイ父にごま化され
口あいて笑ふ話題も次女三女
体臭があさまし小説を書いて
長欠の机給仕も拭かずなり
生酔にやつとこさつと銭残り
船住居下駄もやつぱりはくと見え
花火屋へ今夜も星がふりさうな
夜が明けてきて燈台の色は白
落選をして方言になつてくる
東京に売られて白い飯が食へ
居候湯呑片手に機嫌よし
ぢいさんが死んでばあさん素枯れて来
猫も親子で陽を探しあて愉し
子の気魄転んでからの顔に見る
夏蜜柑主客酸つぱくなつてゐる
日本晴鷹の子の顔もう猛し
波といふすがたになればすぐに消え
テープ一筋愛人の手に惜しまれる
海女の乳石でこさえたやうな子ら
迷ひ子へ子を持つてゐて立ち止り
狂人をしずかに風鈴がさせる
漁村陽があたつて女子供だけ
廻り道すぐそこにある寺の屋根
松すぎて学ぶ炬燵の夜となり
高台は空気も褒める数に入れ
脱帽に双生児のやうな同い歳
夕刊はまだ名の知れぬ生存者
葬ひに来たけどわかる大工職
あんな太い針金がある橋の裏
就職の朝隣家にも声をかけ
指の爪自分の顔を描こうかな
誘蛾燈ネオンとちがふ夜のつとめ
始末書をとられて女将独り酌
鶏の声子の声やがて初日の出
夏火鉢吸殻のまま三日たち
生酔の突然起きた膝小僧
嬉しい日子宝を背に手に膝に
日本中鯉が泳いで五月晴
二重橋手洟素早き団体旗
しもたやはそのまま暮れて戸が閉り
母として肩叩く手の小ささよ
叱られる膝にも少し灯が届き
愛人にはたして芽ぐむ虚栄心


by nakahara-r | 2006-01-01 10:32 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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