はさんで残る

 はさんで残る

余りありすぎて笑はす子の希望
冷奴フオークで食らふ倅ども
両方の手で仲裁は我慢させ
過去帳に顔の知らない兄の齢
世論とはやがて世論になつてくる
収賄に献金とルビふり無罪
資本家の方も社説はたしなめる
河豚釣つた東京湾の鉛色
鮒売も客もしやがんで陽が当り
一月を朝陽に酔つたやうな村
種馬へみんな並んで腕を組み
飲みあかし呼べば何時でも好い返事
大学も二年となつて顎のひげ
一日中歌聞かされて総白痴
展望車もう菜の花に少し倦き
天皇の中折帽子だけが見え
実印のそばから母は苦労性
労働歌だけが唄へる無口なり
鼠算答を出してギヨツとする
孝行はせめて一緒に親と死に
リユツクサツク子は子のやうな膨れかた
鶴の巣へ晴天ばかり約十日
交通安全旬間だから怪我で済み
令嬢の和服湿布の頸ほそし
もう一つあたまがほしい二日酔
除夜の鐘還らぬひとの齢も殖え
新刊を楽しく明日に読み残し
学校へ行く子見送る朝のお茶
五色揚馴染も薄い昨日今日
これでこの友を失ふ金を貸し
頑なをからたちに見る寺の塀
制服に知性鋭き子のあたま
言ひ募る夫婦の上の屋根の猫
引越しにそのまゝ蜘蛛もゐなくなり
稲光せつせと動く雲を見る
人の世のあまりのはてにある微笑
泉岳寺知らず乃木坂なほ知らず
すぐに名を忘れる駅の鮒の鮨
洋杖を地べたへ突かぬのが紳士
歯磨の涎を垂らす日曜日
北風に襟巻ほそき月給日
ハンモツク病人ぢやない高鼾
気の長い話してゐる鶴と亀
洗ひ髪さすが姑も眼を見張り
雀吹雪いて呼吸もあらず空に消え
恩返し手を突きながら詫びながら
炎天を翳もはらまぬ耕運機
生ビールうろたへつつも元の色
お迎へ火芸者になつて十五年
だしぬけに倒れて剣舞威勢よし
御飯粒こぼせば拾ふ齢となり
子福者の長男次男髭を立て
念仏の人一人ゐる暗い家
登る気がある蝸牛考へる
冬が来た海と林檎と異人の子
ああ更けてわが家へ酒の呼吸荒し
喇叭みな光つて終るシンフオニー
警官の美談半年ほど知れず


by nakahara-r | 2006-01-01 10:34 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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