名人のかひな

 名人のかひな

じつと見る石燈籠を売つた金
塗りながら夫の服のあるところ
仲人と一緒に見てるカレンダー
石庭に雪ふりつもる音を聴く
下町の神木刺さる冬の空
二階にも慣れて鰯の焼き加減
シャツクリへ呼吸をするなと親の無理
どうしても歯医者へ行かぬ姉の頬
お元日妻もパーマをかけたらし
朝酒の口をへの字にして叱れ
凡凡と綽名もつかぬ出勤簿
水ばかり飲んでて癒る夏の風邪
五年ぶり雛しまふ娘はすでに妻
サンマ焼く顔が火鉢へボウと浮き
南京虫万策つきてうづくまり
子の病気玉より石になつてくれ
秋の庭夏に咲くだけ咲いた鉢
米二合入る会社の状袋
何がニユウハツピイイヤーかと富士に基地
子を連れてライスカレイも二年ぶり
新聞社こんなしづかな室もあり
前売へ島田が並ぶ師走の夜
水を飲み飲み少女勝気な綴方
星の名にちと嘘があるバルコニイ
お帰りとただ声だけの妻となり
留守居する子は二階から首を出し
柳伸びだすとどうにもやめられず
羊羹に下戸の冥加は茶が入り
引潮へ上手に死んだおばあさん
物干で花火見てゐて盗まれる
図書館の鉛筆ケチに使ふなり
引越して釘抜いたままそれを打ち
百貨店迷子に夫人振向かず
病人の顔を金魚の方も倦き
席を譲られ老人に成りおほせ
爪びきは口で言へない灯を見つめ
春の雨ひととこ陽なためいた屋根
ハイヒールここも何とかいふ銀座
針供養母のすがたを姉に見る
机拭いて二尺の中の好い仕事
驚いてデコボコに立つ牛の尻
海苔干場のろりと通る猫の尻
一月のわが子に風とこの光
母さんが娘の頃のヴアイオリン
姉の子と末子の年と同い歳
ストライキ働かずして食ふべし
好きだつた子が引越して店が閑
税関のチヨークは英語とも違ひ
ラヂオ体操船の父子も靄に立ち
西洋の刺繍に銀の月と船
旅の風呂訛と別に一人浮き
下町の屋根が哀れな花曇
花氷つめたくなつた母子の手
今月も母と子で食ふ晦日そば
隅田川はさんで残る町言葉
亀三箇きびしき冬の池の水
満潮の下駄を戻した小半丁
松の内正に豚児で三度食ひ


by nakahara-r | 2006-01-01 10:36 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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