2006年 01月 01日
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たらちねの鐘
葬式が出て金持の庭が知れ
涙もう出ずに病人泣いてゐる
当直へ突然落ちた洗面器
新婚へ贈る座布団鶴が舞ひ
お辞儀して返してもらふ貸した金
窓固く咳する人の書斎らし
言ひきつた両手が友情を摑む
友だちの方も待つてた日暮れがた
はつゆきはちらちらよはくすきとほり
嫁ぐ日の手へ母からの貯金帳
恢復期今朝から茶碗持つて喰べ
嫁がせた娘の名が残る紺蛇の目
日の丸も知らぬヨイコに誰がした
夏祭夫婦に風もなき憩ひ
代診へ羊羹少し薄く切れ
左手で持つ番傘に要る力
十二月夫婦で長い顔になり
嫁が来て匙でお皿の飯を食ひ
満員車あなたまかせの車掌ゐる
稲妻の真下に低い製材所
町の反感へセパード通り抜け
菜たねふぐやはり食ひたい友と会ひ
セキとハナくしやみと顔も忙しい
愛の鐘たらちねの鐘鳴ると出る
仏壇を出さうで出ない蚊が一つ
白魚の歯闘志は水を噛むに尽き
アヴエマリヤ合唱の肩揃ひたる
応接間課長の頸を和服に見
待つてゐて正確すぎる腕時計
駅近くテレビアンテナしきりなり
子福者の子に順がある写真班
炎天に石より乾く鰐二匹
泥酔をじつと見てゐる子の凄さ
仲の好い二人とンがる口と口
底抜けの戦であつた父よ子よ
製材所夏が来たのでそれが音
底力口を結んでからのこと
旧友は二三日家の人にされ
老学者或る日を呆乎筆執らず
はらはらとさせる祝辞の国訛
父の理屈と母の理屈のおもしろさ
春七日ぼくに盃置く間なし
読みかけの雑誌で姉と少し紛め
馬市を大きく廻る馬の尻
空つ風浅草の灯は消えてゆく
間借りして潔癖哀れ四十すぎ
青すだれ風も染つて青く抜け
宝籤気の狂ふほど似た数字
アルバイト玉みがけども光なし
友の香にあり二年目の冬帽子
乳姉妹東北訛だけ違ひ
合唱に一人脳天からの声
木枯に飛んだ帽子と人ひとり
胡瓜の苗や夕顔の苗子はひる寝
渡り者もうそこに慣れ子を抱いて
雪に柳一本だけの河岸
船唄も漁師の親となつた幸
料理番慣れた柄杓の持ちどころ
by nakahara-r
| 2006-01-01 10:38
| 川上三太郎『孤独地蔵』