さくらさくら

 さくらさくら

ゴシツプへ案外夫人機嫌よし
探し物棚へあたまを二度ぶつけ
速達で来る欠席は雨に濡れ
そこまでは陽が届かない違ひ棚
弟も大人になつた猪口の位置
おばあさんの突飛な夢に笑はされ
十二歳提灯行列したい齢
新郎を待つてる桜炭の灰
丹念に猫も撫ぜれば伸びてみせ
童謡の通りカナリヤ忘れ顔
東京へ修学旅行濡れに来る
旅に出て首輪をはめぬ犬二匹
大伽藍つめたい灰が盛つてあり
野良犬も暫し朝日にめぐまれる
ヴアイオリンさくらさくらと嬉しそう
白菜に冬を恐れぬ娘の白腕
颯爽と社長の事務も久しぶり
純綿の子の腹巻が簞笥から
社長室寝てるでもなく眼をつぶり
おだやかなかたちでシユークリーム出来
お年玉先着順と齢の順
若草に見る陽の恵み水の愛
ガード下話の続きやりすごし
オンブして子の提灯が鼻の先
お母さんにそそいでくれる二月の陽
縁日のあたまの上を梅の花
衿巻もミトメも久し出勤簿
こほろぎのどういふ気だが畳這ふ
五色揚玉葱にある海老の味
北風へ尾をしまひ込む迷ひ犬
聞きわけの好い子の涙透き通り
蠅捕デー子は潔癖な箸を持ち
羽根募金寄り添ふことも主婦おぼえ
爪楊枝お釣銭は要らぬ左の手
包金奥の病人気が弱し
小鳥身をそらざまにして陽をこぼし
孤高とはいつか外食券に慣れ
七面鳥鳥屋の前の好い陽なた
終列車敵ともはなれ味方とも
新内の頬ぺたへ行く左の手
世界語の雑誌誤植のやうに刷り
剃刀へ頬ぺたもちと努力する
寒稽古父子で白い呼吸二つ
一月の酒盃にはや灯がついて
一夜旅駅に間近く貨車の音
猫歩き放題歩き家で寝る
抜穴は何だ出て来たこんな所
シヤンデリア一球欠けたそれも春
自動車の学校とてもデコボコし
珍客へ少うし庭があつてよし
風を剪る鋏で乙鳥ひるがへり
駈出して子があげる凧妻と見る
梅雨寒をまだ向日葵の三五寸
末つ子は関西訛赴任する
ステツキを担いでもみる待ち呆け
託児所を子もさよならと振返り
煙草屋の子供今年は釣銭を出し
親分の両手にあまる赤ン坊


by nakahara-r | 2006-01-01 10:45 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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