一月日日好日

 一月日日好日

言ひ負けたポケツトの手は意気地なし
薬指なるほど紅の用があり
暗がりでやつぱりわかる壁の位置
出がらしも心やすさの盆で出し
超越をした筍に少し紛め
家計簿に今年は出来た掘炬燵
お隣家の子も娘になつて会釈する
模型船船名小さき救命具
もろもろの音の最後に除夜の鐘
庭おほらかに明けかけ牡丹開くかな
新妻の紹介友も改まり
猪口伏せる元より飯は食ふ気なし
偽刑事だつたで暮れる小料理屋
二枚目も久しい旅の幟の名
十二月炭と歩いて振向かれ
汐干狩子のない淋しさを佇つて
泥鰌逃げのびて途方にくれてゐる
ドレスメーカーより痩せてゐてホツとする
子供靴真直ぐ立つて褒められる
午前十時主婦にひとときある憩い
家中の靴が揃つて今日終る
酒とろり実に一月は日日好日
鉄工場蛙も浮かぬ池にする
村の名が新聞に出る鮪漁
眠薬を瞼もこぼすまいとする
妻去つてわが子の瞳うつろなる
通訳の手も手伝つて腑に落ちる
甲虫黒きを誇る夏来る
釣葱去年の釘と眼の高さ
山深く霧探し二人逢ふために
浴衣買ふ少うし派手を意識して
反射したとこで見つける冬の塵
左ききあざやかに釘打ち終り
日が暮れて全く鍛冶屋真の闇
妻起つて生活(くらし)の敵へ夫かばふ
使賃子に駈けてきた効があり
行商の弁当のお菜あれつぽち
漁村閑閑娘都会にあこがれず
むすめとは上野に着いたその夜まで
ピンカール妻の頭が小さくなり
久しぶり異人ははつきりと見せる
風と海に馴れた漁師の家二軒
陽炎に小手などかざす舞妓たち
椅子の音ばかりになつた多数決
生字引机きれいに拭いてから
団体の酒へ茶碗が行き渡り
医者が手を握らぬ婆よく歩き
酌もせずさせず久しい酒の店
発車ベル異人の涙見て帰り
鉢巻を取る手伝ひの齢を訊き
一本の箸へ里芋煮えてくる
土用干火鉢を邪魔にしてまたぎ
どうもヘンだなと落丁見つけられ
旅の割箸にも慣れた出張費
闘つた封書附箋が三四枚
地図にない番地であらかたを歩き
ソプラノは少し身体をゆする癖
それは微風だつた子供の時の遠足


by nakahara-r | 2006-01-01 10:49 | 川上三太郎『孤独地蔵』


<< 花嫁の自動車 さくらさくら >>