使へない紙幣

 使へない紙幣

姉妹は螢を三歩追つて止め
押売の虎穴に入つて虎子を得ず
三度目の家出涙も出ない親
空閑地姉妹五人好い素脚
金屏風夫なる人の咳を聴き
桜暮れはじめて棄子だとわかり
さかさまにすれば二号とおないどし
土用干ムーツとオーバー簞笥から
鮎二尾曽我兄妹のやうに焼け
祝電をじつと聴いてる鶴と亀
これやこの恋儚なしや波がしら
夏祭定剤屋二人影もなし
点字本微笑むとこに来たと見え
楽隊は売れる売れぬに拘らず
どうしても酔つた芸者の肩の線
女学校押し合ひながら笑ふ事
御先祖も二道かけた色と慾
涙膨れてやがて瞳が浮く感じ
改心をするだんだんに下がる首
掌へ崩して書いてまた訊かれ
お元日小さきわが子のぼんのくぼ
妻として知る前からの幼顔
昼酒にしば漬けよろし箸の先
水を飲む朝の野犬の隙だらけ
教はつた通り芽が出て忙しい
使へない紙幣に正金銀行替へ
水ももう動かず秋の金魚鉢
病人を子は懸命に笑はせる
春の烈風にたんぽぽ狂ほしげ
草鞋穿くとさもはるばるといふやうな
心配を祖父はアツハツハと笑ひ
軍鶏の顔青菜へ首が三つ出る
番頭の頬骨とがり闇相場
教祖さま死んで底抜けだとわかり
釘抜に女房の口もととがるもの
人通り絶えて湯を飲む蹄鉄屋
夕ざれば酔へば君の名口癖に
乳姉妹一人は海の子に育ち
濁流の大泡小泡折合はず
雛の客足がしびれて美しき
腹の立つ胸へ自分の手を重ね
母親の出る日晴れてる寺の屋根
北風と一緒につかむ蒟蒻屋
独り者ゲンノシヨウコへ尖る肩
羽子の音わが子は家のまはりだけ
ひとしきり釣魚にも凝つた棚の隅
花散つてまた百姓の娘に還り
松すぎて帽子はあたま手に鞄
周囲から席譲られて齢想ふ
夜露しつとりと家出の娘に袖に
交叉点子の手の小ささ引受ける
立候補火事お見舞の名刺です
読めさうで読めない支那の古雑誌
立膝のくせも居職の秋の夜
お元日妻も老いたる媼となり
落とし穴狸が白い朝の雪
おめでたう雪もきよらなお嫁入り
女友だち五対一で負けてゐず


by nakahara-r | 2006-01-01 10:52 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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