交番に番地が

 交番に番地が

女店員迷子へ少し姉の気味
春が来た子を連れた人連れぬ人
おばあさん少しづぼらで笑はせる
男の子口を結んでから強し
貯金帳子もじりじりと高が殖え
兄弟も大人になつた櫛二つ
彼岸寺今日の人手にあるしじま
ジヤズに似たものを芸者も弾きは弾き
微笑まずされどそむかずなりにけり
凡人に箸函一つ膳の上
次女三女父の寛ぎだすを待ち
交叉点子と子朋友相信じ
樹海しづかに全くの白昼となる
新夫人衿足はまだ女子選手
踏台のフト眼に入る釣魚道具
乱視眼どつちにしても貶される
冬の月家突き抜けて隣家まで
交番に番地があつた寺の庭
貨物駅夜露と月に光る猫
聞いてゐる耳愛人に引張られ
展望車みんな異人で眼をつぶり
慾のない顔になりきる箸二本
酔痴れて手で這ふごとく家に着き
金魚屋も暫し見てゐる洗濯機
孔雀の尾鶴は隣で倦きてゐる
旧友も朝気がついた壜の数
神代より河口はんらん山崩れ
履歴書を出す横顔にある弱気
鯊釣りへ貧乏長屋気が揃ひ
白衣着て奇声でねばる駅二つ
パチンコに学者孤高をたのしむか
兄妹で早起き箒奪ひ合ひ
叱られた通りに叱る政治力
海苔を焼く貧乏ゆすり叱られる
きまり手へあつさりとした拡声機
新聞がすぐにやぶける安い茄子
赤ン坊を笑はす顔を妻笑ひ
冬の蠅そのまま春の蠅となり
春の夜をしづかに水をのむしじま
猫の足拭く下町の叔母の家
この道のはてはありけり養老院
籤運のよい子そろつたランドセル
明日から母校となる日暫し佇つ
自動車は恩師の路地で断はられ
鮎の骨これも芸者の芸のうち
腹も出つぱつて資本家らしくなり
世界一周嬉しやわが子下駄で待ち
あはれ子よ耐へて闘ふ四十度
シヨルダーバツグ電車で吊革を持たず
流行妓下戸は暫く感に耐へ
白薔薇の花にわが掌も老いしかな
色鉛筆折れて齲歯のやうな穴
長火鉢古り夫婦とも苦労人
中断の経済市況託を言ひ
銀行の休み本当に誰もゐず
もりそばを女中も見てる左きき
屋上でああ日本も狭くなり
親切な警官だつた靴の音


by nakahara-r | 2006-01-01 10:53 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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