二百四五十本

 二百四五十本

看護婦を妹に持つた洗面器
一年生もう君と呼ぶ友が出来
銀行の紙幣で妾宅払ふなり
東京で轢かれるとこを初めて見
落し物やがて正直者の顔
言葉といふその不自由さラヴレター
紅茶飲む愛人の耳透き通り
一月の風と闘ふうす光
おぢいさんになりおばあさんになり仲が好い
兄弟で犬棄てにゆく日暮れがた
東北の子の遊戯手を叩くだけ
リユツクサツク手品のやうに匙が出る
居留守して玉葱を踏む台所
麗人募集麗人でないのに出かけ
一列乗車少し短気を恥ぢて立ち
両方の手を握らせる発車ベル
白衣募金陰陰と佇つサングラス
ハゼ日和これは魚拓にかかはらず
一日里親へはいはいと好い返事
割箸も染つてウニの味となり
旧友の方も両手を出す握手
貨物駅鶏が出入りしてるだけ
昼の陽に月給取の生白さ
フイナーレに二百四五十本の脚
滝壺へ衆を頼んだ女学生
小さい湯呑と大きい湯呑と姑の湯呑
川向う工場みんな煙を吐き
角店の西陽の奥はもう夕餉
友だちも酔つてはゐるが子の土産
隣家から盗んだ石も三日経ち
盃を下戸は両手で持ちは持ち
出るとこへなかなか出ない門構
沢庵でお茶づけぢいさんとおばあさん
頼母子の下駄は自分でしまふ棚
手が四つ出て長火鉢仲がよし
松すぎてしやんとして拭くわが机
嫁ぐ日のわが娘ながらも﨟たけて
友だちの土産に友の声おもふ
迷ひ子の胸から手紙見つけ出し
風立ちぬ動かぬみどり動く樹樹
陽炎を食つてるやうな牛の顔
九回裏別に奇蹟もなく負ける
草の葉に風あり風はありがたし
病上り西瓜に染る心持
浴衣着て弟の方が背が高し
蟇汝元来懶者
風呂買つて父さんも歯を食ひしばり
かつぽれにお酌靨が二つ出来
伯父上の上手に減つた日和下駄
夕刊の鈴使へない片方の手
新郎と新婦で車窓おもしろし
正直は国の宝で馬鹿がつき
振上げて暫く止まる鶴ツ嘴
拡声機駅の迷子の親の耳
旧友へここらあたりも工場区
冬の午後動けば寒い猫の面
早起きでないおばあさん叱られる
新家庭銀座も倦きた午後のお茶


by nakahara-r | 2006-01-01 10:54 | 川上三太郎『孤独地蔵』


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