魔法の数と揺れる記号たち

川柳スープレックスで「鹿首」の作品をとりあげていただきました。
飯島章友さん、ありがとうございました。

肌寒い日が続く、ちょっとへんな梅雨です。
気圧が不安定なせいか、偏頭痛に襲われたりしますが基本的には元気です。

そんななか、俳句ハガキが届きました。
タイトルのグラデーションがうつくしい。
西原さんが赤系で金魚、笠井さんが青系で目高、というところも洒落てます。

その男さみし首から上が蠅 西原天気
六月や切手を舐めて雲を見て
首から上が蠅! 不気味とか怖いとかじゃなく「さみし」というところ、好きです。
むかし「ザ・フライ」という映画がありました。主人公はさみしいひとでしたね、たしかに。
 

夜の新樹すべてのドアの開くたび 笠井亞子
つつがなく夕暮れが来て冷蔵庫
樹の香りが匂い立つ一句です。若葉や樹液のにおいと、もう寒くはないけれど、すこし冷えた夜の空気が感じられます。萩尾望都や長野まゆみのえがく少年たちの夜、を連想しました。

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ご紹介が遅れましたが、俳人の花森こまさんの個人誌「逸」には、楢崎進弘さんの川柳がなんと300句も掲載されていて、とても読みごたえがあります。
隠れ楢崎ファンのなかはらとしてはうれしい限りです。
さっそく今日のカルチャー教室で資料として使わせていただきました。
前半部より10句ほど抜いてみますね。

苦しくていとこんにゃくを身にまとう
何はともあれ時代はいつも冷や奴
あとがきの長さも魚肉ソーセージ
缶詰のパイナップルの面汚し
いちにちの終わりのほうで鰯かな
肉体としての駅舎を通過する
かろうじて犬のかたちの犬眠る
すべり台を滑る三泊四日ほど
かつて岩崎宏美の前髪のせつなさ
もう少し寒くなったら笠智衆

好きな句を抜き出すときりがないのでこのへんにしておきますが、
このほかにも魅力的な句でいっぱい。

そして、うれしいことその2
倉本朝世さんの10句が掲載されています。

砂こぼすように忘れる出生地
この世から剥がれた膝が美しい
生まれてきた日「えいえん」にさわった日

「逸」は定価1000円
興味のある方はこちらまでメールいただければ対応いたします。
nezimaki@coffee.ocn.ne.jp


「おかじょうき」6月号

病院の待合室はすこし黒 横澤あや子
いもうとは原っぱだけを置いていく 横澤あや子
ずっと気になっている書き手のひとり、横澤さん。
「病院」と「黒」、「いもうと」と「原っぱ」の取り合わせは常套とまではいかなくても、いたってふつーなのに、ふつーではない作品に仕上がっているのは、「すこし」と「だけ」という、<限定>ゆえなんじゃないかと思います。「すこし」という限定によって暗そうにみえて、ぼんやりと明るいかんじを与えたり、「だけ」という限定によって、あっけらかんとしてるようにみえて、ちょっと持ち重りがするかんじを与えたりするんじゃないかと。

八時から十二時までの声でした ひとり静
六月を放ると父が落ちてくる 守田啓子
一対一より十対十のほう偉い 田久保亜蘭
数字の句を並べてみました。
かつて俳句の世界では正岡子規の<鶏頭の十四五本もありぬべし>について、「七八本でもいいではないか」と論争が起きたと聞いています。個人的には「十四五本派」なんですが、だって、七八本は穏健にすぎる。十四五本の異常さは「ありぬべし」というへんてこな語法に妙にマッチしているように思えますから。ひょいと掴んだ数であれ、考えて決めた数であれ、一句のなかでどのように作用してるか、ですよね。上にあげた作品たちの数は動かない、と思います。おもしろいですね、数って。

プール大プリンの揺れのト音記号 柳本々々
疑問符がふやけて夜が降りて来る むさし
続いて記号です。どちらも不思議な記号たち。
まず柳本さんの句、「プール大プリンの揺れ」までが「ト音記号」に掛かってます。おおきく揺れたんですね、ト音記号が。あの縦棒の下部が左側にカーブしたその先っちょにある、マッチのあたまみたいなとこが揺れて、揺れは次第にプール大プリンくらい大きくなって、くるくるした渦巻に伝わって、全体が揺れるんですね。プリンの揺れ方って独特でしょう。たっぷんたっぷん揺れるト音記号。ホーミーとか、そんなかんじの音楽かなーと思いました。
むさしさんの疑問符ですが、あれは点のとこをひっぱるんですよ、きっと。
ふやけてるから、点も膨張してるわけで、蛍光灯の紐みたくなってるんじゃないでしょうか。
ね、夜、降りて来るでしょう。
しかし、記号ですら揺れたりふやけたりする。川柳って動詞ですね。



by nakahara-r | 2015-06-17 22:33 | 川柳


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