弓なりのネパール、そしてひなまつり

雨ばっかりだった春が知らないうちに終わって、すでに初夏ですね。
町が緑に満ちてます。

では、手元の川柳誌から。

樹萄らきさんの『2014』は一年分の作品とエッセイの詰まった個人誌。
こうして自分の作品をまとめておくことって、じつはとても大事な作業で、それはだれもが重々わかってはいても、実際はなかなかできないことでもありますね。
べらんめえ口調がらき作品の特徴でもあって、それも魅力的ではありますが、この句、いいなあ。

弓なりになるまで鳴り響くピアノ 樹萄らき

「弓なり」になっているのはピアノだと思って読みました。
ピアノは音を出すのがおしごと。「弓なり」にはギリギリ感というか、一途な懸命さが感じられます。
それと同時に多幸感みたいなものもあるような気がして、そういえば桜も弓なりで咲いてるよなーとか思ったのでした。


『おかじょうき』4月号から
会員作品という雑詠から
たくさんの顔が埋められている真昼 土田雅子
いや、だから、こわいんですってば、真昼。
なんかスリラー仕立ての作品ですが、わたしはパンジーとかビオラとかを連想しました。
っていうと、なあんだ、って謎解きみたいになっておもしろくないんだけど、も、ですよ。
同じもの見て、このように書けるか? なんじゃないかなと思います。
もしこれがほんとうにパンジーだったとしたら、アウトプットのしかたに感動します。

国境を越えたら手前味噌になる 鳴海賢治
「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった」という、ちょー有名な小説の書き出しがあたまに浮かびました。
「手前味噌」が別の意味をもつ新しい言葉のようにも読めて、じつにたのしい句です。

どうしても連れていってと泣くちくわ まきこ
ちくわ、かわゆし。
「ちくわ」という音のかわいらしさが十全に描かれています。
しかたない、お弁当のおかずにして連れてってやってください。
炒めますか? 揚げますか?

ゼクシィで殴られる けっこう痛い 松木 秀
うんうん、あの雑誌、けっこう分厚いですし。
じゃなくて、いやそれもあるかもだけど。
あの、結婚に特化した雑誌、ずっと気持ち悪いなと思ってました。
で、皮肉ったり馬鹿にしたりするのはけっこう簡単なことで、やってしまいがちなんですが、そういう句には好感がもてない。
でもこの句はちがいます。「けっこう痛い」という本音が軽く自虐めいていて、そこにかわいげのようなものを感じました。

この世から湾をしずかに掬い取る 横澤あや子
わかりません。湾がなにを意味するのか、まったくわからないんだけど、好きな句です。
鍋に浮くアクみたいに「しずかに掬い取る」んですよね、「この世から」。
この世を波立たせないように、細心の注意を払ってなされなければばらない、ある種のふるまいが書かれているのではないかと思います。

うなじより鶴飛び立ってから暮色 小野五郎
スズメやヒヨドリくらいならまあ、うなじから飛び立たせられそうなんですが、一歩譲って、鳩や鶏でも、まあ、いける。
だけど、鶴ですよ、鶴。けっこうでかいよね。
ショッキングな出来事に遭遇したりしたときに、後頭部あたりでバサバサッって音がするような気もします。
ちびまる子ちゃんで言えば、顔に何本か縦線が入って、冷や汗たらーり、みたいな。

チェシャ猫の笑わない種を飼っている 柳本々々
チェシャ猫をチェシャ猫たらしめているのは「笑い」ではないでしょうか。
ならば、笑わないチェシャ猫は、もはやチェシャ猫とは呼べないのでしょうか。
消せるボールペンとか、匂わない納豆とか、属性をゆるがすものはすでにあったりもします。
それでもボールペンと呼ばれ、納豆と呼ばれるわけで。
だから、笑わないからチェシャ猫ではない、とも言えないんですよね、じつは。
おもしろいですね。

題詠「孤」から
骨盤を矯正するか孤立するか 守田啓子
二択なんですね。
骨盤を矯正するか/孤立するか
と読みました。並列できなさそうで、そうでもなさそうなところがおもしろくて。
カッコよく「孤立」を選びとりたいきもちは山々ですが、
最終的に骨盤矯正を選びそうなぐずぐずな自分がいることに気づいてしまいました。
やれやれ。

「路」
T字路の右も左もガラパゴス 月波与生
ガラケーということばがありますが、日本ってけっこうガラパゴスっぽいと思います。
だから、もっと意外性を求める向きには、もしかしたらつきすぎと思われるかもしれない。
でも個人的にはこのくらいの距離感のほうが心地いいんですよね。
不思議なかたちの植物の下をイグアナがのっそり歩いてる風景なんか想像しちゃいました。

「セール」
おぢいさんなんてバナナの叩き売り 奈良一艘 
えと、この「なんて」はなに?
バナナの叩き売りみたいに「おぢいさん」なんて連呼されてるってことでしょうか?
ぜんぜん読めてないんですけど、「ぢ」も含めてめっちゃおもしろいと思いました。

イスラム国の砂漠の中のひなまつり むさし
この句をみた瞬間
ネパールはとても祭りで花むしろ 阿部完市
という大好きな俳句があたまに浮かびました。
そして、そのネパールで大地震がありました。
想像以上にこたえてます、なんか。
ともあれ、俳句の阿部完市はネパールの祭りの雑多な賑わいや華やぎを詠み、
川柳のむさしさんは、まぼろしの雛祭りを、殺伐とした光景、あるいは乾いた精神のなかにそっと置いてみたんですよね。
やさしい川柳だとおもいます。


去年も同じような時期に同じような写真をUPしたような気がしますが、
ことしもライラックが咲いてくれました。
ベランダに出るといいにおいがします。
しあわせ。


d0162614_17141695.jpg

緑色ってほんと多彩だと思います。いろんな緑があって、どれもうつくしい。
そんなことを言えば、赤だって青だって多彩なんですけどね。
新緑の季節はいちばん好きな季節。


d0162614_17143641.jpg

d0162614_17145126.jpg



おまけのまりん。
「まりんさん、写しますよ」
「いや、にゃー」
d0162614_1715225.jpg

「えと、写しますけど……」
「すきにすればー」

d0162614_17153482.jpg

「もうちょっと右むいてもらえませんかね」
「……」
d0162614_1716498.jpg

「あの、右なんすけど」
「……、……。」

d0162614_17161844.jpg

で、やっと前向いてくれました。

d0162614_17162964.jpg

by nakahara-r | 2015-04-26 17:13 | 川柳


<< 運命という名の糸こんにゃく やさしい川柳 >>