びわこ、おかじょうき

うかうかしているうちに3月になってしまいました。
いただいていた本たちから。

「びわこ」2015,02より

ええ話ないのか数の子をつまむ 畑山美幸
お正月の一場面でしょうか。
方言であることが臨場感をあたえているのではないでしょうか。
言ってるひとと聞いてるひと、そしてその周りの人々。
人物の輪郭がぼんやりと浮かびます。

多すぎたお釣りのように抱かれる 北村幸子
「多すぎたお釣り」って絶妙な形容ですよね。
抱いている人と抱かれている人の間には歴然とした温度差があって、
もそれは抱かれている人だけが認識している。
多すぎたお釣りを返すのは、手放しでは浸りきれないほう。

取り出したとたんに甘くなる昔 久保田紺
共感度のたかい句だと思います。
記憶って取り出すたびに少しずつ脳内で上書きされていくんですよね。
それも「そうであればよかった」的な方向に。
取り出された「とたんに」甘くなることが決定しているんです。

開脚のままで失礼いたします 峯裕見子
状況を想像するとおかしい。
「失礼いたします」と言えるくらいの時間的余裕と礼儀があれば、
まず足を閉じましょうよ、と言いたい。
なのに「ままで」なんである。身体ってときに気持ちをうらぎりますよね。

部屋になるまでの私を待っている 徳永政二
「部屋になる」私、「待っている」私。
ここにいる二人の私は身体と意識なんじゃないかと思います。
「部屋になるまで」をどう解釈するのかは読者しだい。
わたしは眠りにつくまでのうとうとするあいだの、
いま自分の足や腕がどんなかたちで何に触れててどこにあるのかわからないような、
あの、周りに同化してゆくような不思議な体感を思い出しました。

「おかじょうき」2月号より

そっと置くいずみたくとはつい知らず 田久保亜蘭
いずみたく!!
もう何十年も口にしたり耳にしたりすることがなかった固有名詞を
こんな形で提示されて、それだけで圧倒されました。
いずみたく、いず、みたく、い、ずみたく、いずみた、く……。←こわれた

そっと背中を押してあげます(崖) 松木秀
ブラックです。
(崖)はBY崖 という意味ですから、
もう、真っ黒です、崖。
でもすき。
いいひとばっかりの川柳だったらおもしろくないでしょう?

セーターを羽織ると沼が寄ってくる 小野五郎
カーディガンじゃないですよね。セーターですよね。と確認したくなります。
セーターを羽織るとは、もしかしたらあの、
両袖を首の下のほうで結ぶギョーカイ巻きでしょうか。
トレンディドラマの石田純一みたいな。
いや、そりゃー確かに沼しか寄ってこないわ、と思った次第。

母さんが初期化している雪野原 守田啓子
「母さん」と「雪野原」は情緒的とてもよく似合うと思います。
「初期化」と「雪野原」も意味的にとてもよく似合うと思います。
ところが、「母さんが初期化」で、情緒も意味も霧散してしまう。
そこにふわりと別の世界がたちあがるような、おもしろさがあります。

ルール上タスマニアデビルは通名で 月波与生
なんのルールなんだか。
でも、タスマニアという地名で、住居を特定されるかもしれず、
デビルという呼称から、あらぬ嫌疑をかけられないとも限らない。
通名はいたしかたないところかもしれません。
固有名詞のおもしろさをだれか徹底的に追及してくれないものかしら。

書置きにこすれと書いてある真昼 柳本々々
書置きですよ。
ただのメモじゃなくて。
「こすれ」って、どこを? なにを? なんで? と???でいっぱい。
重大なことが起こってるはずなのに、ぜんぜん重大そうにみえないところが怖い。
夜でも朝でもなく、真昼であるところが逆に怖い。
むかし、オウム真理教がテレビに出まくっていたとき、
へんなかぶりものをかぶって、へんな歌とへんなおどりで選挙運動してて、
あれがわたしめちゃくちゃ怖かったのを思い出しました。
一見、なんの危険もないようなものが一変するほど怖いものはないですよね。

というわけで、
遅くなった2月号からでした。

by nakahara-r | 2015-02-23 00:02 | 川柳


<< 『鹿首』Vol.7 ははとはは... ドアがある骨にも岬にも >>