約束だから

寒蜆約束だからそっと煮る/青砥和子(東海柳壇1月31日掲載)



  約束の寒の土筆を煮て下さい/川端茅舎

「約束」「寒」「煮る」とくれば、どうしても川端茅舎の句を想起せずにはいられない。
青砥の句には茅舎ほどの切実感はみられないが、
それは希求する側とされる側のちがいでもある。
ともあれ「約束だから」にぐっときてしまう。
まさか寒蜆との約束ではないだろう。
(だいしょうぶよ、そっと煮てあげるから、ほら怖くないでしょ)みたいな。
いや、あるか? 
という冗談はさておき、この約束ははたして「蜆を煮る」ことなのだろうか。
そうかもしれないが、それだけではないような気もする。

わたしにはこの句は二箇所で切れているように思えるのだ。
「寒蜆/約束だから/そっと煮る」

「寒蜆をそっと煮る」という日常の手仕事の中に、
唐突に「約束だから」という漠然とした思念が割り込んできたような。
「約束だから」が宙に浮いたかんじ。
どんな約束かはわからない。
誰との約束かもわからない。
でもなぜか胸にせまるものがある。

なにげない日常のルーティンワークのなかで、ふっと紛れ込む過去の記憶の断片。
瞬間、胸がちくっとしたりするが、すぐに忘れてしまうもの。
そんな日常をだれもが生きている。
by nakahara-r | 2013-02-21 00:04 | 東海柳壇 拾穂抄


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