中村冨二『千句集』第一章

第一章
昭和19~20年 海軍入隊中

追憶(現代川柳句集)
風の中、男、男とないて怒る
腰かけるものが濡れてる疲れてる
生命あらばとて別れ來し冬の真中
山うどは苦し、泪は我のもの
別れとは落葉一つに吹く風か
黄昏れて誰かに似てる鯊の貌
冬の陽はチラリと鼻に射して消え
松燃えて松に命の有る如し
頼もしき男となれよ秋の子よ
空っぽの両手をこすり喰う話
不倖せせめて冬陽をてのひらに
白い花輕い頭痛に揺れずあり
春の日の鞭は優しい牛車
二の腕に一本長き毛を愛す
楽しさよ淋しさよ田に手を洗ふ
叱られて案山子の如く泥を行く
虱を捕って花びらに乗せてみた
迷い犬秋の女に追い出され
事なかれ主義へ泌々冬迫る
泪ぐせ駄辯に遠く指が冷え
幾百の他人の言葉冬が來た
秋の雨、焔は我に飛びかゝり
手を二本吊げて眼のやるとこが無し
望郷にとぼしき煙草曲りあり
手を輕く叩いて淋しさに勝たん
も少しの努力が足らず夜具ぬくし
焼き跡は鋭角多し、冬なれや
嘘一つ事實となすは難きかな
歯に沁みる甘さ我が子を戀ひながら
眠らうとする鼻柱真すぐに
by nakahara-r | 2010-06-17 21:41 | 中村冨二『千句集』


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