定金冬二『無双』砂時計

-砂時計(昭和50年~58年)-
折り鶴の傷をしきりに妻が吹く
男は時計を縛ろうとして墜落す
妻に渡す花の名ぐらい知っている
妻の座で破りつづけるものがある
妻に叛いて眩しい位置にあるポスト
妻を待つ倒せるものはみな倒す
冬の妻 楯にするほど花を買う
仇討ち終わり妻の漬物皿がある
妻と書くときはうしろをふりむくな
妻に訃が届くやさしく妻を抱く
神は遠いところに妻の傘を置く
花を狙っていつか花屋の妻になる
妻をもらうと遊動円木から落ちる
輪廻かなときどき妻の顔を見る
妻が歩く仏が歩く古い絵本
投げつけた小石が妻の部屋にある
寂しいときは妻の背中を押せばよい
妻が帰ると直ちに被告人になる
約束を破ってからは妻の風
妻がぼくを褒めているのは復讐だ
他人の命と妻のいのちは別にある
妻に黙って消える電車はきっとくる
妻の名を思い出すほど雪が降る
近代に溺れて妻をまだ持たぬ
電車のなかでおもうおんなの誕生日
打楽器を打つとおんなが返事する
夾竹桃 いまから鬼の妻になる
雑兵の妻で走ってばかりいる
炎天の男を短詩だとおもう
雨の日は雨で男を生け捕りに
それから男は水の幻ばかり見る
ひとりで押すものが男に多すぎる
リターンマッチの男に聴かす子守唄
男無冠しっぽの痛むときがある
笛を買う男をぬくい眼でみつめ
いまも男は小学校の絵をおもう
恩を知る男に天が深くなる
木枯らしを引き連れてくる火のおんな
おみくじを結ぶ母の木おんなの木
竹の林で乳房が騙せそうにない
象に乗るおんなもふるさとを持たず
落馬した男をうどん屋にさそう
男ごころの弱いところで舞う鶴よ
鶴舞うて男の構図きわまれり
男には味方をしない春の蛇
象の牙 朝の男らよわよわし
女ともだちがときどき石を投げ
野菊咲く母の運河のやさしい部分
ぼくの方ばかり見ているおかしな馬
スプーンを曲げるのは薄情な男たち
朝のめし男は逃げるものである
石を曳く男をすべて抱きしめん
同居して花屋の道をすぐ覚え
ちりめんじゃこの音を男は知っている
梯子から落ちた男が歩いている
崖の男はおもいつづけて崖になる
男がくれたのは鳩笛と深い傷
堕ちておんなは小次郎という猫を飼う
男の傘を隠して別れようとする
風呂敷をたたむ男の眼のなかで
旅で見る下駄屋がなぜかあたたかい
旅の男はすんでのことで舟に溺れ
冬の旅せめてことばを豊かにす
凍ての旅 細い絆は売り急げ
祭来て古い男ら充実す
見つかってしまいはにかむ雪おんな
男ひとりの家に居座る卸金
でんでん太鼓をくれて男はすぐ死んだ
男炎上 死に美しさなどいるか
花の名にとても重なる男の死
おんなは時計を縛ろうとして昇天す
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by nakahara-r | 2009-06-17 01:03 | 定金冬二『無双』


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