定金冬二『無双』センチメンタル 背番号

-センチメンタル(昭和50年8月)-
痛いところに朱の椀が置いてある
朱の椀に鴉がとまる なさけあり
朱の椀の一夫一婦は死に給え
朱の椀を灯す なむあみだぶつかな
朱の椀にちりぬるものもありぬべし
朱の椀と蝙蝠傘は他人だわ
朱の椀に葦の一本ありがたや
朱の椀に雪もさくらもちりぬるを
朱の椀を伏せる首塚よりたしかに


-背番号-
(昭和50年~58年)

生涯に一羽の鶴を描いて死ぬ

一月の手斧をまっすぐに下ろす
木馬から下りてひとりのまつりかな
君が代をひとりで唄うときもある
男ひとりのくらしに灯る紅生姜
男を数えリンゴを数え私小説
青いリンゴを一週間は見つめよう
わが庭に一本はあるなさけの木
せめて一日信じてみよう小鳥の死
象を見に行くやさしさを一杯に
逢う前に一度花屋で眼を洗う
妻にならないかと一度だけ言おう
ふところに男は駅を一つ持つ
一枚は妻にあずけておく白紙
折り鶴を一羽残して国境へ
葉桜や一番好きな絵が売れる
ぼくは低迷 脱臭剤を一個買う
泣いてすむ話が一つ落ちている
一つ一つ音譜をひろいめしを炊く
一つ覚えの芸であしたの町に着く
一尺の縄にことばをかけられる
友だちは一人もいらぬ雪景色
奈落への道 一冊の辞書を買う
バイブルの一行を消す冬木立
しんばるが一度だけ鳴るおとしあな
照明を一つずつ消す美少年
一匹に袴が置いてある夜明け
音楽を一杯たべて裏切りへ
敵よりも一寸高い下駄を履く
枯野一枚 面一枚のいくさかな
一揆の中のとても短い棒である
落下傘ひらく一つの嘘もなし
死ぬまでに一度は唄え木挽歌
蹄鉄屋の槌とオルガン一致する
死ぬときは小石を一つだけ握れ
長い一列 止めようがない鳩時計
ローラーゲーム一人殺して子守唄
土塀つづく男を一人葬って
一本の蝋燭なれば地に灯す
一人殺して記念バッジをつけている
一人死んでやさしさをます花の彩
祈っても祈らなくても一つの死
翔ぶ鶴を一度も見ずに縛につく
炎天の鴉一羽を喪としよう
一つずつ答えを捜す風の墓地
原罪や雨の一粒地より降る
一滴の水は証で地に沈む
どこまで歩いても二枚舌の上
腹が立ったら葉書を二枚書くことだ
離婚したらわたしは猫を二匹飼う
円も二つになると円ではすまされぬ
二杯目の珈琲を飲むさらし首
文学や 二つの耳を切り落とす
越後恋唄 藁の枕が二つある
逢えぬ夜の乳房が二つ魚になる
戯作者になろうと三度めしをくう
裸婦の絵を三枚買うと笑う馬
風葬の縄が三寸ほど足りぬ
五寸釘の重さと人間の重さ
うっかりと枕を外す村八分
許されて九月の溺死者になろう
九人のおんながくれる柿の種
十枚の皿を重ねて 疑いぬ
燈台守をせめて十日はして死なん
十字架に鴉がとまるありがとう
十字架の上と下とのめおとかな
十月の獅子約束をなにもせず
起き上がれ十を数えたその後で
ふるさと十日 軽い傷なら百はある
硝子の猫は百年たって哀しくなる
百個の椅子に百人掛けている風刺
命乞い薔薇を百本ほど活けて
百ぺんもお辞儀をすると黒くなる
百輪の椿と遊ぶこいびとよ
原爆写真と無数のことば降り止まぬ
百年使える暦をおんなから貰う
指の疵 僧百人をならばせる
百円を落として走るのを止める
100挺のヴァイオリンには負けられぬ
千すじの髪は殉死のためにある
千人塚の雪はふりむくものでなし
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by nakahara-r | 2009-06-17 01:01 | 定金冬二『無双』


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