定金冬二『無双』野の仏

-野の仏-
(昭和40年~45年)
てのひらに掬うと米に貌がある

作品ABC 弔電を射ちに行く
向こうからも穴を掘っていた神話
アベベの白い靴 麦めしを描く夫婦
フライパン熱し合掌などはせず
遠のく指はプロレタリアの勲章なのだ
雑兵のひとりひとりに名はあるぞ
古い塀を倒す地獄を見たいぼく
テレビは暗殺 夫婦で植える花の種
孤児は創られる 炎は美しき炎
無縁墓林立まずしき者のデモ続く
火柱は天に届かず弱者の死
鋏爪を切る 解放軍はどこまで来た
薔薇の赤 死人がかけている眼鏡
開け薔薇 孫の柩がやってくる
柩を飾るのは一本のナイフでいい
埋葬のあとを二本の足で歩く
喪の河を渡るはプラスチックの馬
やがて墓地から音楽隊がくる
合掌の形で斃れうるさい音楽
なんという崩れる音のすばらしさ
農夫の系図いくさの系図みな炎える
今日も会談今日も曝すは農民の傷痕
議長はやく女兵士をおんなにもどせ
冷凍魚 目ざめてはるか祖国動乱
旗は複数 農夫らも持つ複数の面
メロン空洞 祖国復帰は犯される
キャベツ刻むうしろにあるは処刑の天
ユーモア売りに政治は重い税をかけ
首相の貌ことに激しく石割る男
兵は空より踊り子の足うつくしく
一枚の硬貨掌にありいくさは嫌だ
おやつの時間 血を売る列ははるかに続く
木馬悪政を蹴れ詩を書いてやるぞ
花を植えてミサイル基地の翳を消せ
春はまだ火薬を量る銀の匙
この町の一角にある錆びた武器
多数決が歩く貰いの少ない日だ
軍国人形銃の重さも妖しやな
かつて間諜を生みし闇に置く
一個の死体 私は何を書くべきか
風が砂丘を犯しはじめたふりむくな
狙撃兵まず鳩を射つ華やかに
政治忍法ガラスの馬を見事疾らせ
青年が斃れる国のまつりの灯
朱の絵具朱の虫となり政治を襲え
冬の炎天 政治屋も死ねぼくも死ぬ
夥しい孤児が漂う党主会談
喪の女カッと見ている冬の冬
やがて黒い手首ばかりとなる夕陽
パトロンが来てベトナムのテレビ消す
平和という悲劇を知っていなさるか
揃うもの揃いいくさがしたくなる
眉に火がつく楽しみを歩いている
消音銃を沈めてうまい珈琲だ
すばらしくむなしく男人を待つ
吊革に真夜中があるゆうらゆら
本心の近くに毒薬を隠せ
孤児かと思った一本の厳しい木
救急車疾るはかない充実感
鳥籠の扉しずかに一揆がくる
返り血の中で鮮明なる過去だ
平和売りの通ったあとの穴を見よ
斃れるまで疾れ男の償いだ
花焼くけむりもう始まっていた自虐
そこのけそこのけ学生さまのお通りだ
デモ暴発 真珠の哀しみをしらず
火炎びん投げると炎える父母の像
棍棒で打てば父 警棒で打てば母
野の仏こころの花をみなあげる
石地蔵みつめているとくにがある
くにを捨てたらまたあいにくる野の仏
ふところの鴉が哭けば逢いたくなる

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by nakahara-r | 2009-06-17 00:52 | 定金冬二『無双』


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