題詠マラソン2005

001:声
泣き声をあげないように手から手へ蝉の抜け殻わたってゆくよ

002:色
暮色いまわたしのゆびをすりぬけてあなたの息にまぎれてしまう

003:つぼみ
かたわれと思うからだを離すときつぼみのままでこぼれることば

004:淡
淡彩の時間は流れどこまでもほんの家族のままでいましょう

005:サラダ
さらさらと過去になりますわたしたちサラダボールにレタスを盛って

006:時
ひよどりが一羽来たりて去る時の枝のふるえをおぼえていてね

007:発見
星よりも雨は親しい雪もまた、空に発見されないように

008:鞄
鞄からノート取り出すようにして冬の記憶に外気をあてる

009:眠
きのうふたりで名前をつけた街路樹につながれたまま眠りにおちる

010:線路
終電のあとの線路をあるいたね空にも海にも属さない青

011:都
ふりむけば都忘れのむらさきが揺れておりますしきたりとして

012:メガホン
グランドに投げ捨てられたメガホンといつか置き去りにした犬と

013:焦
おやゆびを口にふくめば早春の空の焦げゆく匂いとおもう

014:主義
主義なんてぽんぽんだりあワタクシはしどろもどろに暮らしております

015:友
液晶に「友」という文字あらわれて今宵ひそかに散る木蓮よ

016:たそがれ
もう帰る、もう帰るねとたそがれにまぎれる前の声だけがある

017:陸
大陸のかたちをなぞるゆびさきが宙でとまって秋がはじまる

018:教室
消えないものも消えゆくものも一列に並んでいつか教室を出る

019:アラビア
「アラビア」と発語するとき上下するあなたの喉に青い魚いて

020:楽
点滴のチューブ伝って音楽がわたしの身体に満ちる十月

021:うたた寝
うたた寝の額にかるく手をあてて夢の温度を計っておりぬ

022:弓
弓と矢ののちの時間をぼくたちは過ごすやさしいさよならを重ね

023:うさぎ
さっきまで飛行機だった紙はいま白いうさぎに変わるさいちゅう

024:チョコレート
やくそくはもひとつあってチョコレート口に含めば角から溶ける

025:泳
脱げそうな水泳帽を押さえつつたどりつけない場所があること

026:蜘蛛
蜘蛛の巣はうつくしいから何度でも同じところで出逢いそこねる

027:液体
ボクというひとつのかたち保つため揺らさぬように運ぶ液体

028:母
らいねんの春には母になるひととコップの中でうまれるひかり

029:ならずもの
いちめんの泡立草に囲まれてならずものにもなれないおまえ

030:橋
いままでに渡ったはずの橋の数、交わしたはずのやくそくの数

031:盗
柿の実は夕陽を浴びてつやつやと盗まれること夢想している

032:乾電池
乾電池一本ぶんのちから持て アナタガスキダ、アナタヲスキダ

033:魚
抱きしめる腕がないから魚にはなれないふたりニセモノになる

034:背中
台本に書かれたような朝が来て、さよなら背中、肩の糸くず

035:禁
禁じればあんしんできるひとたちが夜更けに啜るあまいみずです

036:探偵
灰色の脳細胞の探偵がぼくらの夏を捜してくれる

037:汗
汗ばんだあなたの胸に触れるたびちいさな森を産みそうになる

038:横浜
横浜にともだちがいて横浜は群青である今日も明日も

039:紫
あけがたの紫陽花いろに濡れている鍵つきのドア嘘つきのドア

040:おとうと
おとうとと花火したことうすぐらい部屋でなまえを呼びあったこと

041:迷
迷うだけ迷うがいいよここにいて外を見ながら待っててあげる

042:官僚
ぬばたまの夜の官僚宿舎なれ規則正しく寝がえり打って

043:馬
感情という名の馬がつぎつぎと第四コーナー曲がり終えます

044:香
梅の香のガムを一枚差し出され言いたかったこと忘れてしまう

045:パズル
「あ」で終わる五文字のことば日常をパズルみたいに組み立てながら

046:泥
にちようはあえませんから泥つきのお芋のように転がってみる

047:大和
汚れたら洗えばいいさたましいもそらみつ大和、男子のおへそ

048:袖
袖口がなんどもなんどもずり落ちて金木犀の季節を告げる

049:ワイン
らいねんの(梨+ワイン)じゅうがつの(虹-コーラ)ぼくらについて

050:変
常温でしばらく置かれ肉塊はとまどいながらかたちを変える

051:泣きぼくろ
柳ヶ瀬は濃尾平野の泣きぼくろフィリピーナがぺたぺたとゆく

052:螺旋
蔓草の螺旋に抱きしめられていてカーブミラーはしあわせでした

053:髪
液晶に花びらが降り雪が降りしずかに髪をなでられている

054:靴下
お祈りのかたちになって靴下を脱ぐまめでんきゅうのあかりの下で

055:ラーメン
ややこしいふたりになってしまわぬようラーメン食べに出かけましょうね

056:松
出さなかった手紙に切手貼るようにグリーンサラダに飾る松の実

057:制服
制服の紺は無実を主張する秋の陽射しを吸い込みながら

058:剣
剣に似た葉をもつ花をたずさえてゆらゆら歩く豊臣通り

059:十字
十字路を右に曲がれば海に出る眠ったまんま運ばれてゆく

060:影
さみしい影とさみしい影が重なって銀杏並木は背筋を伸ばす

061:じゃがいも
じゃがいもの皮剥きながらあきらめるわたしのははもははのわたしも

062:風邪
風邪声のあなたが語るいちにちは雪、はるかな海に降っては消える

063:鬼
れいちゃんが鬼ねと言われ鬼として、たぶん今度もまちがうだろう

064:科学
そうですね、たとえば科学館にある化石の貝に陽が射すような

065:城
たゆたゆと水のお城になっているあなたの前で目を閉じている

066:消
まちがって消してしまったメールにも芒そよいでいたのでしょうか

067:スーツ
ほんのりと雨の匂いのするスーツあたまあずけていればよかった

068:四
掟みたいに四つ折りにするハンカチとさみしいといういまのきもちと

069:花束
花束を抱かされているとりどりの花の述語をかんがえながら

070:曲
アンダースローで放られた鍵うつくしい曲線を描きふたりをつなぐ

071:次元
週末は二次元に棲むこいびとの指の先からかすれてゆきぬ

072:インク
群青のインク一滴紙に落ち捨てるってことはなんてかんたん

073:額
つめたい額寄せあってするさよならは、あれは鮫の泳ぐ水槽

074:麻酔
ゆうぐれの空に麻酔がかけられてこんど生まれるときもひとり

075:続
にごりゆく水のぬるさを受け入れてこの日常は続くのでしょう

076:リズム
こきざみにリズムをきざむ片膝のまわりに蝶がうまれ続ける

077:櫛
月光の触手が櫛に伸びるときあなたの夢に銀杏降るとき

078:携帯
さみしさを携帯してる待ち受けの画面にさくら咲かせたりして

079:ぬいぐるみ
ぬいぐるみのくまのお腹を縫い閉じるけんかができてうれしかったよ

080:書
書かなかったけれどありがとうきんいろの稲たち風に靡いています

081:洗濯
日に灼けた洗濯ばさみもろくって、とてももろくて、鳥になれない

082:罠
家族という罠はすずしく匂いたちころがっている洋梨ふたつ

083:キャベツ
晩秋の午後はひとりを引き受けてあまくなるまでキャベツを煮込む

084:林
ひそやかに林檎は蜜をためている言わないことと嘘とはちがう

085:胸騒ぎ
胸騒ぎしずまるまでをまなうらのえのころ草と揺られておりぬ

086:占
濡れたまま傘は畳まれ占いを信じてみてもいいなと思う

087:計画
たまねぎを計画的にきざみつつちがうところが泣いてる日暮れ

088:食
秋色に侵食される町をゆくビーズみたいにつながりながら

089:巻
何回も巻き戻されているうちにうそつきになる記憶のように

090:薔薇
白薔薇、雪の結晶、きみの眉、ときに世界は手におえなくて

091:暖
もういない犬の名前を呼んでみる暖かい舌おぼえているよ

092:届
ていねいに梱包されたまぼろしの家族が届く十月二十日

093:ナイフ
しんとした種を抱ているおんなたち果汁に濡れたナイフを拭う

094:進
さわさわと芒原のまんなかを黄色い帽子の行進つづく

095:翼
みんなみんなじきに忘れてしまうから真昼の月を切り裂く翼

096:留守
留守番電話の赤い点滅(なつかしい)ともったり(声が)きえたりして

097:静
静かだね静かだねと言い合ってかたほうずつの貝殻になる

098:未来
未来しかみてないふりをしつづけて丘のポプラは海にあいたい

099:動
まだ動く、もう動かない、羽虫は羽虫としてえいえんを見る

100:マラソン
ちからある腕に抱きとめられること信じてマラソンランナーは走る
by nakahara-r | 2005-09-21 11:30 | 短歌


<< 錆色の飛沫になって眠ってる 晴れときどき曇り 息をする空と >>