2002年 12月 27日
生乾き 朝の線路も樅の木も
短歌:望月浩之
文:なかはられいこ
乾かない昨日の水着はくようだ淋しさだけで重ねたからだ 望月浩之
がまんできないことっていうのは世の中にたくさんある。
穫れすぎたキャベツみたいにそのへんにごろごろ転がってる。
ほったらかしにされて。
なかでも、湿ったままの水着をつけなきゃいけないケースっていうのは、
上位にランクインされることまちがいなしだ。
サイテーだもの。
ふだん外気に晒されたことのない皮膚に、
じとーっと冷たい布が触れる、あの瞬間。
ほんのかすかになまぐさい匂いが立ちのぼる。
まるで爬虫類かなんかと肌を合わせているみたいでぞっとする。
ああ、思い出すだけでも全身に鳥肌が立つよ。
*
悪かったわね。
乾ききれてなくて。
だからってそんなに嫌わなくてもいいじゃない。
右の足を通るとき、思いっきり顔しかめたわね。
続いて左の足を通るとき、ふかーいため息をついた。
ええ、ええ、悪かったわよ。
あたしだってこんなつもりじゃなかったんだから。
あなたが身体を押し込むのに苦労しなきゃいけないほど、
カラカラに乾いてきちんと縮んでいるつもりだったんだから。
湿ったあたしの内側があなたの乾いた肌をじっとりと包みこむ。
あなたの体温であたしはゆっくりとあたたまってゆく。
そして、ほんのかすかに水蒸気が立ちはじめるころには、
あなたはあたしに親しんでさえいるんだわ。
あれほど不快だったはずなのに。
「やれやれ、なんてやっかいな……。」
って思ってる?
生乾き 朝の線路も樅の木も なかはられいこ
文:なかはられいこ
乾かない昨日の水着はくようだ淋しさだけで重ねたからだ 望月浩之
がまんできないことっていうのは世の中にたくさんある。
穫れすぎたキャベツみたいにそのへんにごろごろ転がってる。
ほったらかしにされて。
なかでも、湿ったままの水着をつけなきゃいけないケースっていうのは、
上位にランクインされることまちがいなしだ。
サイテーだもの。
ふだん外気に晒されたことのない皮膚に、
じとーっと冷たい布が触れる、あの瞬間。
ほんのかすかになまぐさい匂いが立ちのぼる。
まるで爬虫類かなんかと肌を合わせているみたいでぞっとする。
ああ、思い出すだけでも全身に鳥肌が立つよ。
*
悪かったわね。
乾ききれてなくて。
だからってそんなに嫌わなくてもいいじゃない。
右の足を通るとき、思いっきり顔しかめたわね。
続いて左の足を通るとき、ふかーいため息をついた。
ええ、ええ、悪かったわよ。
あたしだってこんなつもりじゃなかったんだから。
あなたが身体を押し込むのに苦労しなきゃいけないほど、
カラカラに乾いてきちんと縮んでいるつもりだったんだから。
湿ったあたしの内側があなたの乾いた肌をじっとりと包みこむ。
あなたの体温であたしはゆっくりとあたたまってゆく。
そして、ほんのかすかに水蒸気が立ちはじめるころには、
あなたはあたしに親しんでさえいるんだわ。
あれほど不快だったはずなのに。
「やれやれ、なんてやっかいな……。」
って思ってる?
生乾き 朝の線路も樅の木も なかはられいこ
by nakahara-r
| 2002-12-27 11:04
| きりんの脱臼(短編)