生乾き 朝の線路も樅の木も

短歌:望月浩之
文:なかはられいこ

乾かない昨日の水着はくようだ淋しさだけで重ねたからだ  望月浩之

がまんできないことっていうのは世の中にたくさんある。
穫れすぎたキャベツみたいにそのへんにごろごろ転がってる。
ほったらかしにされて。
なかでも、湿ったままの水着をつけなきゃいけないケースっていうのは、
上位にランクインされることまちがいなしだ。
サイテーだもの。

ふだん外気に晒されたことのない皮膚に、
じとーっと冷たい布が触れる、あの瞬間。
ほんのかすかになまぐさい匂いが立ちのぼる。
まるで爬虫類かなんかと肌を合わせているみたいでぞっとする。
ああ、思い出すだけでも全身に鳥肌が立つよ。



悪かったわね。
乾ききれてなくて。
だからってそんなに嫌わなくてもいいじゃない。
右の足を通るとき、思いっきり顔しかめたわね。
続いて左の足を通るとき、ふかーいため息をついた。
ええ、ええ、悪かったわよ。
あたしだってこんなつもりじゃなかったんだから。
あなたが身体を押し込むのに苦労しなきゃいけないほど、
カラカラに乾いてきちんと縮んでいるつもりだったんだから。

湿ったあたしの内側があなたの乾いた肌をじっとりと包みこむ。
あなたの体温であたしはゆっくりとあたたまってゆく。
そして、ほんのかすかに水蒸気が立ちはじめるころには、
あなたはあたしに親しんでさえいるんだわ。
あれほど不快だったはずなのに。

「やれやれ、なんてやっかいな……。」
って思ってる?
  
生乾き 朝の線路も樅の木も   なかはられいこ
by nakahara-r | 2002-12-27 11:04 | きりんの脱臼(短編)


<< ようこそ僕の瞳の奥へ サバンナへ あと2ミリ下げれば冬は完璧 >>