2002年 11月 09日
波の音しているけれどぼくじゃない
短歌:村上きわみ
文:なかはられいこ
ほころびもほろびも遠いものとして葡萄の種子を吐き出している
村上きわみ
「ほころび」と声にだしてみる。
「ほろび?」と聞きかえす。
「ほ・こ・ろ・び」
「ほ・お・ろ・び?」
セーターに空いたちいさな穴のはじっこから、
五ミリほどの毛糸の先っちょがひょろんと出ている。
「これは芽かもしれない」
「目?」
芽かもしれない。
セーターの大地からにょろんと生えたほろびの芽。
ひっぱればひょろひょろと伸びて、
あてどなく伸びて、
ついにはセーターをほろぼすことになる芽。
目かもしれない。
セーターのほころびから肌が見えている。
凶暴なエネルギーを内側に秘めたまま、
いっときのしずけさを獲得している白い肌。
台風の目のようなしんとした肌。
も
し
も
し、
あ
な
た、
覗
い
て
ま
す
ね。
ほころびてゆく精神と
ほろびてゆく肉体に
葡萄の種を埋めよう。
いちばんふっくらした
いちばん光る種を埋めよう。
波の音しているけれどぼくじゃない なかはられいこ
文:なかはられいこ
ほころびもほろびも遠いものとして葡萄の種子を吐き出している
村上きわみ
「ほころび」と声にだしてみる。
「ほろび?」と聞きかえす。
「ほ・こ・ろ・び」
「ほ・お・ろ・び?」
セーターに空いたちいさな穴のはじっこから、
五ミリほどの毛糸の先っちょがひょろんと出ている。
「これは芽かもしれない」
「目?」
芽かもしれない。
セーターの大地からにょろんと生えたほろびの芽。
ひっぱればひょろひょろと伸びて、
あてどなく伸びて、
ついにはセーターをほろぼすことになる芽。
目かもしれない。
セーターのほころびから肌が見えている。
凶暴なエネルギーを内側に秘めたまま、
いっときのしずけさを獲得している白い肌。
台風の目のようなしんとした肌。
も
し
も
し、
あ
な
た、
覗
い
て
ま
す
ね。
ほころびてゆく精神と
ほろびてゆく肉体に
葡萄の種を埋めよう。
いちばんふっくらした
いちばん光る種を埋めよう。
波の音しているけれどぼくじゃない なかはられいこ
by nakahara-r
| 2002-11-09 10:59
| きりんの脱臼(短編)