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短歌:村上きわみ
文:なかはられいこ


カルバドスふりかけている 火をつける 部屋中におまえが匂いたつ  
村上きわみ


ほら、この匂いだ。
生まれる前から知ってるような、
ひどくなつかしくて危険な匂い。

たとえば部屋中に薔薇もようの絨毯が敷き詰めてあるとする。
ぼくは薔薇の花のところを踏まないように、注意ぶかく歩く。
なぜって、うっかり踏もうものなら、
薔薇はすぐさま絨毯の模様であることをやめて、
ぼくの足を呑みこみにかかるに決まってるからだ。
いつか植物図鑑で見た食虫花みたいに。
ようするに世界ってのはそこいらじゅう穴だらけだってこと。
だけど、ほんのすこし気をつけていれば気づくことができる。
だって穴は匂うからだ。
きみ、知ってた?
高級感だかなんだか知らないけど、
薔薇もようの絨毯なんて悪趣味にもほどがあるよね。
薔薇を踏まないようにジャンプしたり、
おおまわりをしたりしなきゃいけないぼくの身にもなってほしいよ。
そんな苦労なんてこれっぽっちも知らないで、
おとなたちはみんな、きまって「まっすぐ歩きなさい」って言う。
やれやれ、だ。

こうやって歩道を歩くときも気をゆるしちゃいけない。
敷石と敷石のつなぎ目を踏むと異次元に落ちるんだぜ。
ほら、ひどくなつかしい匂いがするだろ?
ぼくは以前、黒い猫が消えるのをこの目で見たんだ。
請け合ってもいいけど、あの猫はいま異次元にいるね。

あれ? きみ?
……なんだ、踏んじゃったの?
だから言ったろ、世界はいたるところ穴だらけなんだって……。

背景はあざみに固定されました  なかはられいこ
by nakahara-r | 2002-10-25 10:58 | きりんの脱臼(短編)


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