くっつけてちゃんと南の島にして

短歌:村上きわみ
文:なかはられいこ


くるみくるくるったくるみくくられてくびられている くるみはにがい  
村上きわみ




二丁目のヤマシタさんちのおじいちゃんが死んだ。ノウコウソクで。
きょうがオツヤであしたがお葬式だって、ママが言ってた。

だれにも言ってないけど、あたしはきのうヤマシタのおじいちゃんと会ったんだ。
角のポストの横にある柿の木んとこで。おじいちゃんは柿の木をじっと見上げてた。
あたしが通りすぎようとすると、ふりむいて、おいでおいでをした。

ほんとのこと言うとそばに行きたくなかった。
だって、おじいちゃんは歯がないし、だいいち、手とか顔に黒いてんてんがあってきもちわるい。
そう言うとママは「おとしよりにたいして失礼でしょう!」って怒る。右っかわの眉をつり上げて。
ああ、ママはね、眉のかたちがきれいなのが自慢なの。
だからね、怒るときにそうするとエレガントに見えるって固く信じてるんだ。
ママはそう言って怒るけど、こころの中ではあたしと同じこと思ってる。
あれはお正月に長崎のおばあちゃんちに行ったときのことだった。
おばあちゃんの入れ歯が入ったコップを見つけて、「きもちわるいわね!」ってパパに怒ってたのをあたしは覚えてる。
そのときも右っかわの眉はちゃんとつり上がってた。

それですごく迷ったんだけど、しらんぷりもできなくて、そばに行ってみた。
そしたらね、黒いてんてんがいっぱいついた手を出してクルミをくれたの。
2こあるうちのいっこ。あれってロウカボウシのために指の運動するやつじゃないかなあ。
テレビで見たことあるから。あたしとしてはそんなのもらっても困る。
困るんだけど、なぜか「いらない」って言えなかったの。
なんかね、運命っていうの? 
しょうがないな、っていう気になっちゃった。
それでしかたなくスカートのポケットに入れたの。
そしたらおじいちゃん、うれしそうに笑ったんだ。歯のない口をパカっと開けて。
そのパカっ、がすごくおかしくって、笑ったの。
笑い出したら止まらなくなって、ふたりでしばらく笑った。
それだけなんだ。それだけなんだけど……。

ノウコウソクって、脳に血が行かなくなる病気らしい。
どうして血が止まると死ぬの? ってママに訊いたら、「お花だってお水をあげないと枯れるでしょ」って言ってた。
ママってときどきへいきでミモフタモナイことを言う。
「ミモフタモナイ」って言葉は、このまえマサキ先生から教わった。

ポケットに入れっぱなしになってたクルミはあたたかい。
握りしめてると、きのう、ちょっとだけ触った、おじいちゃんのゴツゴツした手を思い出す。
骨と皮だけでできてるみたいな手。
指の運動とかしてたのかなあ、このクルミで。
だけど、なんでヤマシタのおじいちゃんはこれをあたしにくれたりしたんだろう。


くっつけてちゃんと南の島にして  なかはられいこ
by nakahara-r | 2002-10-18 10:56 | きりんの脱臼(短編)


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